教室に悲鳴が響き渡る。
大げさに倒れた女子生徒───ブリ子は、私を見上げてガタガタと震え始めた。涙目で。
そして、静まった教室中に響く声で言った。
この日が、この瞬間が、絶望の始まりだった。
空き教室。教師の目が届かないところで。水浸しで、打撲痕だらけのあなたの胸ぐらをつかみ上げて、屈強な男子クラスメートは言った。
あなたは涙も枯れ果てた目で力なくブリ子を見るが、ブリ子はこちらに目も向けようとしない。
ドゴッ!!と、勢いよくみぞおちのあたりを殴られる。あなたは激しく咳込んだ。
さらに追撃を加えられて、意識が飛びそうになった。
力加減をわかっていない……というより、感情に任せて力加減なんてしていないのだろう。
弱く呼吸をしながら、ぼやけた視界の奥の虚空を見つめていた。視界にうつる屈強な男子クラスメートは、隣の席の男の子だった。出席番号が近く、出身の学校は違うのに、入学してからよく話していた。
あなたは下唇を噛む。
…つらい。
何もやっていないのに。なぜ?なぜこんなことに…?
こうなるように仕向けた本人は、「辛い思いをしたはずなのにいじめっ子に情をかけてあげる優しい女の子」を演出している。
そして、仲の良かった男子クラスメートはブリ子の言葉と偽の証拠を信じて、冷たい視線と暴力をこれでもかとばかりに浴びせてきている。
彼だけじゃない。隣のクラスの人気者も、真面目なあのひとも、友達も。あの日から、みんな私を遠巻きにしている。
それがどうしようもなく悔しく、また、悲しかった。
クラスメートは胸ぐらをつかんだまま、あなたの顔をのぞき込んでいる。
ああ、また殴られるのかな。
あなたは抵抗を諦めた。力尽きたように目を閉じる。
突然、空き教室まで聞こえてきた声。
そのセリフからわかることは、教師が近くにいるということだ。
焦ったクラスメートはぱっと胸ぐらを離した。
ドサッ、とそのままあなたは床にたたきつけられる。
あなたを見ながら大げさに恐怖すると、ブリ子は空き教室を飛び出した。もちろん睨んでなんてない。まずそんな余裕は今のあなたにない。ただの逃げる理由付けだ。
クラスメートもブリ子も追いかけていく。
空き教室を静寂が満たした。
あなたは今際の際のように床に倒れ込んだまま、目を閉じた。
…いっそのこと今、死んでしまいたい。
こんなのがずっと続くぐらいなら。
暴力のなくなった、この静かな空間の中で───
……誰かの声。おそらく、先ほど聞こえた声と一緒だ。
足音が近づいてきた。
淡々とした男の声だ。
呼吸すら痛く感じる体でも、最後の力を振り絞って、あなたはうっすらと目を開く。
同級生と思わしき男子生徒は、あなたのそばにしゃがみ込んだ。
呼吸音にかき消されそうなほどの小さな声。
しかし男子生徒には聞こえたようで、彼は振り返った。
…こうしたら、解決が遅くなるかもしれない。
けれど…。
…よかった。
しかし男は次の瞬間、教室の外に叫んだ。
いったいさっき何を了承したんだ あの男子生徒…!?
驚いたあなたの顔を見て、男子生徒は言う。
それなりの覚悟を持って「先生に言わない」という選択肢をとったのに、「運ぶの面倒」とかいうだいぶ適当な理由でそんなバッサリと……!?
もう何も言えなかった。わざわざ覚悟を決める必要なんてなかったんだ。なんだか一気に脱力してしまって、目を閉じる。
縁起でもないこと言うな。
この物語は、この男子生徒────イギリスと、いじめられっ子のあなたが送る、万丈波乱な学校生活の話である。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。