第2話

歌い手に遭遇!?
22,808
2022/12/13 11:00
(なまえ)
あなた
あ、あの……?
私は、突然飛び込んできた男の人を、まじまじと見つめた。
(なまえ)
あなた
(あれ?
けっこうイケメン……)
よく見れば、歳は私より少し上くらい?

サラリとした艶のある髪に、整った顔立ち。

白いシャツにジーンズっていうシンプルな着こなしだけど、背が高くて爽やかな雰囲気の彼によく似合ってる。

けれど、その瞳は怒りに満ち満ちていて、……すごく怖い。
吉村 帝
吉村 帝
早く、出て行け
吉村 帝
吉村 帝
お前、部屋まちがえてるだろ。
このフロアは、今、俺たちの貸し切りだ
(なまえ)
あなた
貸し切り?
吉村 帝
吉村 帝
嘘だと思うなら、店の人に聞いてこい
(なまえ)
あなた
そんな
吉村 帝
吉村 帝
しかも、さっきからド下手な歌を大声で歌いやがって……、
こっちは迷惑してんだよ
爽やかな顔から放たれる、超絶冷たいセリフに、開いた口が塞がらない。
(なまえ)
あなた
ド下手って、ひどくないですかっ?
吉村 帝
吉村 帝
とにかく今の時間は、俺たちの貸切だ。
ジャマするな
彼は私の腕をつかむと、強制的に部屋の外へと追い出した。
(なまえ)
あなた
いたたっ!
吉村 帝
吉村 帝
九時半まで、このフロアに近寄るなよ!
彼は念を押すように言うと、このフロアで一番大きいパーティールームに入っていった。
(なまえ)
あなた
な、なんなの、一体……
私はすぐに、一階のスタッフルームへと駆け込んだ。
(なまえ)
あなた
優菜ちゃん!
今、四階で歌ってたら、変な男の人が入ってきて、出てけって追い出されたんだけど!?
坂部 優菜
坂部 優菜
あ、そうそう!
坂部 優菜
坂部 優菜
さっき、ワンフロアを貸してほしいっていうお客さんが来たから、四階を貸し切りにしたんだ
(なまえ)
あなた
えーっ?
そんなの聞いてないよ〜
坂部 優菜
坂部 優菜
ごめん、ごめん!
まさかあなたちゃんが使うとは思わなくて
坂部 優菜
坂部 優菜
それでね、
何に使用するのかって聞いたら……
坂部 優菜
坂部 優菜
なんと、今から歌の配信をするんだって!
(なまえ)
あなた
えっ?
歌の配信!?
坂部 優菜
坂部 優菜
そう!
あの人たち、歌い手さんらしいよ!
(なまえ)
あなた
うそっ、歌い手!?
すごっ!
坂部 優菜
坂部 優菜
でしょ?
私もびっくりしちゃって!
坂部 優菜
坂部 優菜
私、歌い手さん大好きだけど、日常生活でリアルな歌い手さんに会うのは初めてだから、もう、感激〜!!
(なまえ)
あなた
私だって!
もしかして、有名な人かな?
坂部 優菜
坂部 優菜
それがわからないんだよね。
さっき来店カードを書いてもらって、名前を見たけど、歌い手さんは基本的に本名で活動しないからね
(なまえ)
あなた
そっかぁ
坂部 優菜
坂部 優菜
帰りぎわに、歌い手名を聞いてみようかなぁ。
私、歌い手には詳しいから、結構わかるよ!
(なまえ)
あなた
えー!
もし有名な歌い手さんだったらどうしよう!?
急にミーハー心がむくむくと騒ぎ出して、止まらなくなる。
(なまえ)
あなた
……ねぇ優菜ちゃん、ちょっと四階の様子を見に行ってみない?
部屋の外からでも、多少は聞こえるよね?
坂部 優菜
坂部 優菜
……いいね!
私たちは顔を見合わせてニッと笑うと、静かに階段を駆け上った。

* * *

四階まで来ると、私たちはパーティールームへと忍び足で近づいた。

しばらくすると、部屋の中から男の人が歌う声が聞こえてくる。
坂部 優菜
坂部 優菜
……わぁ!
やってるね!
(なまえ)
あなた
今、配信中かな?
坂部 優菜
坂部 優菜
たぶん違うと思う。
今、声出ししてるんじゃないかな
言われてみれば、さっきから何度も同じフレーズを繰り返し歌っていて、練習してるみたい。

けれど、聞こえるのは彼の歌声だけで、カラオケの音源は聞こえない。
坂部 優菜
坂部 優菜
この歌い手さん、いい声してる。
きっと売れっ子になるよ
(なまえ)
あなた
ホントに?
坂部 優菜
坂部 優菜
私の耳に狂いはない!
年間どれだけ歌い手さんの歌を聴いていることか
確かに、これまで優菜ちゃんが目をつけた新人の歌い手さんは、必ずブレイクしていた。
(なまえ)
あなた
じゃあ、今のうちに、サインもらっておこうかな?
坂部 優菜
坂部 優菜
だね!
お会計の時に頼んでみようか
(なまえ)
あなた
いいね!
坂部 優菜
坂部 優菜
あー、今日に限って十時までバイトが入っているんだよね。
ここでずっと聴いてたいよー
その時、優菜ちゃんはピクッとイヤフォンを押さえた。
坂部 優菜
坂部 優菜
わっ、お客さんに呼ばれた。
もう戻らないと
(なまえ)
あなた
えー、残念!
このまま一人で盗み聞きしているわけにもいかず、仕方なく私も一階へ戻った。
(なまえ)
あなた
配信ってどんな感じか、見たかったなぁ
坂部 優菜
坂部 優菜
ホントに!
もう、バイトなんかしてる場合じゃないのに
優菜ちゃんはぶつぶつ言いながら、オーダーシートを見て、コーラとウーロン茶をお盆に乗せた。
坂部 優菜
坂部 優菜
205号室にドリンク届けてきまーす
優菜ちゃんは、他のバイトの人に告げて、厨房を出て行く。

それを見て、私ははっと思いついた。
(なまえ)
あなた
そうだ!
配信が始まる前に、ドリンクの差し入れを持って行ってみようかな?
お店からのサービスってことで差し入れすれば、自然な感じで部屋に入れるよね?
(なまえ)
あなた
(我ながら、いいアイディア!)
私はニンマリと笑いながら、ジョッキにウーロン茶とオレンジジュースを注いで、四階へと駆け上る。

そして、澄み切った歌声が聞こえてくるパーティールームの前で足を止めると、深呼吸をしてから元気よく扉を開けた。
(なまえ)
あなた
こんばんはー!
こちら、お店からの差し入れです!
吉村 帝
吉村 帝
!?
相良 颯
相良 颯
え?
部屋の中にいた二人の男の人が、ぎょっとしたように私を見る。
(なまえ)
あなた
あれ?
ただならぬ空気を感じて、私は入り口で固まった。

奥の方でパソコンを触っていた男の人が、あわてたように口元に人差し指を当て、静かにしてというジェスチャーを私に送ってくる。
(なまえ)
あなた
吉村 帝
吉村 帝
……すみません、少し機械の調子が悪くて、雑音が入ったかもしれないです
(なまえ)
あなた
(あれ? まさか……)
さっき怒鳴り込んできた彼の方を恐る恐る見れば、見たこともないような怒りの表情を浮かべて、私をにらみつけている。
(なまえ)
あなた
(ひえっ!)
(なまえ)
あなた
(もしかして、今、配信中……?)
ようやく事態を把握すると、ドリンクを乗せたお盆を持つ手がガタガタと震える。
吉村 帝
吉村 帝
では次の曲、いきます
(なまえ)
あなた
(どうしよう!?
私、とんでもないことしちゃった……!)
私はなすすべもなく、その場に立ち尽くしていた。

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