オリジナル曲が出来上がった。
まだ公開前の曲を、ドキドキしながらあなたに聴かせた。
あなたは立ち上がって、惜しみない拍手を送ってくれた。
そう言って泣いてくれたあなたを見て、素直にうれしくなる。
それでも、俺の思いが届いたことに、満足だった。
そこまでは良かったのに、つい俺はあなたに好きな奴がいるのか気になって、
なんて、心にもないことを言ってしまった。
すると、あなたは告白したい人がいると言い出して、正直焦った。
なんて、強がって自分に聞いきかせていた。
* * *
その日は、朝から新しい歌ってみたの録音で、颯と二人でスタジオ入りしていた。
さすがは親友。
これ以上言い訳したところで、すべてお見通しなのはわかってる。
親友はすごい。
俺の想いも、性格もよくわかった上で、ここぞというタイミングで大事なアドバイスをくれる。
そんな話をしながら駅に向かって歩いていると、奇跡としか思えないようなタイミングで、向こうからあなたが歩いてくるのが見えた。
颯は興奮気味に言うと、率先してあなたに声をかけにいった。
呼び止めたが、もう遅い。
颯は、はりきってあなたと話を進めていってしまう。
急に心臓が、ドクドクと音をたてて鳴り始めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!