第21話

本当に好きな人
3,812
2023/04/25 11:00
(なまえ)
あなた
〽︎
Hey!
歌え! 感じるままに
叫べ! 心のままに……
学校が終わって、一人カラオケをしていたけど、どれだけ歌っても、一向に心は晴れない。
(なまえ)
あなた
……やっぱ、やめよ
私は歌の途中で、演奏停止ボタンを押した。

選曲してくださいと言う文字とともに、軽快なBGMが繰り返し流れる。
(なまえ)
あなた
今日に限って、優菜ちゃんはバイトお休みだしなぁ……
私はため息をつくと、広いパーティールームの天井をぼんやりと眺めた。
(なまえ)
あなた
(……ここにいると、思い出しちゃうよ)
皮肉にも、この時間空いていたのは、このパーティールームだけだった。

仕方なくここで一人カラオケをしていたけれど、この部屋には、帝先輩たちとの思い出が多すぎる。
(なまえ)
あなた
ここで帝先輩と颯さんと一緒に、曲作りをしたっけ
ほんの少し前のことなのに、ずいぶん前のことみたい。
(なまえ)
あなた
帝先輩、本当に歌がうまかったよね……
(なまえ)
あなた
って、歌い手なんだから、当たり前だけど
目の前で歌ってくれた素敵な歌を、ひとつずつ思い出す。
(なまえ)
あなた
帝先輩……
急にさっきの言葉を思い出して、胸がぎゅっと痛くなる。
(なまえ)
あなた
(あんな帝先輩、初めて見た)
帝先輩はいつも毒舌だし、優しくないし、からかってくるけど、どこか温かみを感じていた。
(なまえ)
あなた
(さっきの帝先輩は、まるで私を拒絶してるかのような態度だった)
(なまえ)
あなた
(なんでだろう、唯人くんにフラれた時よりも、ショックが大きい)
帝先輩に突き放されたことが、こんなにも辛くて苦しいなんて。
(なまえ)
あなた
……もう、帝先輩には会えないのかな
つぶやくと、じわっと涙がにじんだ。
(なまえ)
あなた
……帝先輩の歌が、聴きたい
床に、ぽたっと涙が落ちた。
(なまえ)
あなた
あれ?
なんで私、泣いてるんだろ……?
知らないうちに流れていた涙を、慌てて袖で拭いた。
(なまえ)
あなた
おかしいな……
涙がとめどなく流れて、止まらない。
(なまえ)
あなた
帝先輩……
その名前をつぶやくたびに、胸が切なくなる。
(なまえ)
あなた
ああ、そっかぁ……
(なまえ)
あなた
私、帝先輩のことが好きだったんだ
俺様で毒舌、おまけにプライドも高いのに、その反面、恋には人一倍臆病で傷つきやすくて。

そんな不器用なところも、全部含めて。
(なまえ)
あなた
……いつのまにか、好きになってたんだ
突き放されて、初めて自分の気持ちに気づくなんて。
(なまえ)
あなた
私って、バカだなぁ……
自分で、自分の頭をコツンと叩いた。
唯人くんに告白したのも、盛大にフラれたら、また帝先輩に素敵な曲を作ってもらおうと思ってのことだった。
(なまえ)
あなた
今さら気づいても、もう遅いのに
もう興味は無いと言った帝先輩の言葉を思い出して、また泣けてくる。
吉村 帝
吉村 帝
『……本気で好きになった奴にフラれたら、そんなに平気でいられるはずがない』
前に言われた言葉を思い出す。
(なまえ)
あなた
……帝先輩が言ってた言葉の意味が、やっとわかったよ
ーー本当に人を好きになると、楽しいだけじゃなくて、こんなにも切なくて、悲しい気持ちになるんだって。

プリ小説オーディオドラマ