第22話

私にできること
3,622
2023/05/02 11:00
ひとしきり泣いた後、私はパーティールームを出て、ドリンクのコップを返しに厨房に入った。
坂部 優菜
坂部 優菜
あ、あなたちゃん?
来てたんだ
(なまえ)
あなた
優菜ちゃん!?
今日、お休みじゃなかったの?
坂部 優菜
坂部 優菜
お休みだけど、来月のシフト出すの忘れてて、ちょっと寄ったんだ
心が弱っている今、優菜ちゃんの姿を見ただけで、せっかく止まった涙が、またボロボロとあふれだす。
(なまえ)
あなた
優菜ちゃん〜!
こんなタイミングで来てくれるなんて、神様、仏様〜!
坂部 優菜
坂部 優菜
あなたちゃん、どうしたの?
(なまえ)
あなた
優菜ぢゃ〜ん、もう私どうしたらいいかわからなぐで
坂部 優菜
坂部 優菜
と、とりあえず、場所を移そう?
優菜ちゃんに連れられて、私たちは近くの空いてる部屋に入った。

* * *
坂部 優菜
坂部 優菜
そっかぁ……。
帝くんに突き放されてから、やっと自分の気持ちに気づいたんだね
(なまえ)
あなた
うん……
(なまえ)
あなた
私、ほんとにバカだよね
(なまえ)
あなた
一緒に過ごしている間は、帝先輩なんて絶対に好きにならないと思ってたのに
(なまえ)
あなた
会えなくなってから、好きだって気づいて……
(なまえ)
あなた
もう今さら、遅いのに
坂部 優菜
坂部 優菜
……別に、今からでも遅くないんじゃない?
(なまえ)
あなた
え?
坂部 優菜
坂部 優菜
いつものあなたちゃんらしく、フラれるの覚悟で、ガツンと告白すればいいんじゃない?
(なまえ)
あなた
……そんなこと、できないよ
(なまえ)
あなた
今さら告白して、帝先輩を困らせたくないし、
それに……
(なまえ)
あなた
これ以上、傷つきたくない
坂部 優菜
坂部 優菜
えっ……
(なまえ)
あなた
(恋に臆病になった帝先輩の気持ち、今ならわかる)
(なまえ)
あなた
本当に好きな人に拒絶されるのって、すごく辛いんだって、初めてわかった
坂部 優菜
坂部 優菜
そっか……
私の言葉を、優菜ちゃんは重く受け止めてくれた。
坂部 優菜
坂部 優菜
あなたちゃんをモデルに作った『マグマ・ガール』、どんどん再生回数伸びてるし、コメントもたくさん来てるんだよね
坂部 優菜
坂部 優菜
SimくんのSNSも、どんどんフォロワー数増えてるし……、
あれっ?
そこで、スマホを見ていた優菜ちゃんの動きが止まった。
(なまえ)
あなた
どうかした?
坂部 優菜
坂部 優菜
待って、
Simくんが、『体調不良のため、しばらく歌の配信を休みます』だって
(なまえ)
あなた
えっ……?
坂部 優菜
坂部 優菜
体調不良って、大丈夫かな
(なまえ)
あなた
言われてみれば、帝先輩、ここ数日学校を休んでたけど……
坂部 優菜
坂部 優菜
配信まで休むなんて、心配だよね
(なまえ)
あなた
私、帝先輩にメッセージ送ってみる
私はすぐに、『体調不良ってどういうことですか』って送ってみたけど、返信が来る気配はない。

私はしびれを切らして、颯さんに電話をかけた。
相良 颯
相良 颯
もしもし、あなたちゃん?
(なまえ)
あなた
颯さん、いきなり電話してすみません
相良 颯
相良 颯
いいよ。
どうかしたの?
(なまえ)
あなた
帝先輩、SNSで体調不良で配信をお休みするって言ってましたけど、どこか悪いんですか?
相良 颯
相良 颯
ああ、それはね……
相良 颯
相良 颯
体調不良っていうより、
帝は今、歌を歌えなくなったから、休んでるんだ
(なまえ)
あなた
歌えなくなった……?
(なまえ)
あなた
どうして?
一体、何があったんですか?
相良 颯
相良 颯
うーん、それは僕にもよくわからないんだけど……
(なまえ)
あなた
(歌うことが大好きな帝先輩が、歌えないだなんて)
相良 颯
相良 颯
ごめん、電車が来たから切るね
(なまえ)
あなた
あ、はい
電話が切れた後も、信じられない気持ちでいっぱいだった。
坂部 優菜
坂部 優菜
颯くん、何だって?
(なまえ)
あなた
帝先輩、今、歌を歌えなくなってるみたい
坂部 優菜
坂部 優菜
歌えないって、なんで!?
(なまえ)
あなた
どうしてかは、颯さんもわからないみたいで……
坂部 優菜
坂部 優菜
そう、なんだ……。
歌い手が、歌えなくなるなんて、辛いだろうね……
(なまえ)
あなた
優菜ちゃんの言う通りだ。
(なまえ)
あなた
……帝先輩が歌えないのは、私も辛いよ
(なまえ)
あなた
私、何かできる事はないのかな
坂部 優菜
坂部 優菜
うーん……、
帝くんが元気になりそうなことって、なんだろうね
(なまえ)
あなた
元気に、かぁ……、
そうだ!
(なまえ)
あなた
私のフラれ話を聞いていたときの帝先輩は、楽しそうだったかも
坂部 優菜
坂部 優菜
ああ……、
まぁ、それがきっかけで、素敵なオリジナル曲ができたけど
(なまえ)
あなた
唯人くんにはフラれなかったから、面白くなかったのかもしれない
その時、急にひらめいた。
(なまえ)
あなた
……あったよ。
私が先輩にできること!
坂部 優菜
坂部 優菜
何?
(なまえ)
あなた
私、帝先輩に告白する!
坂部 優菜
坂部 優菜
え!?
(なまえ)
あなた
……それで、帝先輩に、盛大にフラれてくる!
優菜ちゃんは、言葉を失って私を見つめた。
(なまえ)
あなた
私が玉砕したら、帝先輩が元気になって歌えるようになるかもしれない
坂部 優菜
坂部 優菜
でも……、
あなたちゃんは、いいの?
坂部 優菜
坂部 優菜
さっき、これ以上傷つきたくないって言ってたのに……
(なまえ)
あなた
……いいの
(なまえ)
あなた
私にできる事は、これしかないもんね
坂部 優菜
坂部 優菜
あなたちゃん……
多分、これまでの人生で、一番傷つく告白になるのはわかってる。
(なまえ)
あなた
(それでもいい)
(なまえ)
あなた
(帝先輩に、また歌って欲しいから)
そう自分に言い聞かせて、私は覚悟を決めた。

プリ小説オーディオドラマ