俺はパソコンから流れる音を止めると、ヘッドフォンを外して、ベッドの上に転がった。
あなたに彼氏ができたと聞いたあの日から、ショックで何も手につかない。
食事もろくに喉を通らず、夜も寝られず、ついには歌う気力すらなくなった。
ーーー三年前のあの時と、同じだ。
失恋のショックを引きずって、思うように歌が歌えなくなった。
我ながら、繊細すぎるメンタルに呆れる。
こうなることがわかってたから、もう恋愛はしないと決めていたのに。
ぼんやりと天井を見上げながら、あなたとの思い出をさかのぼる。
* * *
何度フラれても、めげずに次の恋へと全力で向かうあなたを見ていたら、これを歌にしたいと純粋に思えた。
配信に乱入してきたあなたが部屋を出て
いき、二人になると、颯は心配そうに尋ねてきた。
ずいぶん前から、俺と颯はオリジナル曲を作りたいと思っていた。
颯に作詞は歌う人が作ったほうがいいと言われ、がんばって作詞をしようとした。
だが、書こうとすると過去の辛い恋愛体験がよみがえって行き詰まってしまい、前に進めずにいた。
けれど、あなたに出会って、あいつをモデルに歌詞を書きたいという気持ちがこみ上げた。
そう言って、颯は含みのある笑いを浮かべた。
颯はなぜか、ひどくうれしそうだった。
……そう思っていたのに。
そう言ったあなたの瞳は輝いていて、一つ一つの恋愛を心から楽しんでいるように見えた。
あなたの懐の深さに、感心する。
そのことをきっかけに、あなたを見る目が変わった。
……そんな矢先、あなたが颯に惚れかけていることに気づいた。
深入りする前に、颯には彼女がいることを教えたら、がっかりしていた。
少なからず、プライドが傷ついた。
言ってはなんだが、俺は結構モテる方だと思う。
顔もそこそこいいと思うし、何より俺の歌声を聞けば、たいていの女子は落ちるはずなのに、あなたはちっとも俺に惚れるそぶりはない。
意地でも、こっちを振り向かせたくなった。
ちょうど、練習中だったシチュエーションボイスにかこつけて、普段なら絶対に言わない甘いセリフをあれこれ言ってみた。
途中、結構手応えを感じていたのに、
はっきり言われて、かなりショックだった。
昔から、好きになればなるほど、素直になれずに、毒づいてしまう。
不器用であまのじゃくなこの性格に、自分でも呆れる。
見かねた颯が、ため息まじりに言った。
親友の言葉に励まされて、俺は一気にオリジナル曲の歌詞を書き上げた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。