第19話

サヨナラ
3,966
2023/04/11 11:00
その後、一日をどう過ごしていたのか、ほとんどおぼえていない。

夜になって、ようやく決心がつくと、私は唯人くんにメッセージを送った。
(なまえ)
あなた
『唯人くんに聞きたいことがあるんだけど、電話してもいい?』
しばらく返信を待っていると、唯人くんから電話がかかってきた。
霧島 唯人
霧島 唯人
もしもし?
どうかした?
いつも通りの優しい声に、胸が痛む。

本当のことを知るのは怖いけど、勇気をふりしぼって切り出した。
(なまえ)
あなた
……唯人くん、私の他に付き合ってる人がいるの?
霧島 唯人
霧島 唯人
えっ……
唯人くんは驚いて、言葉を失う。

しばらくの間、沈黙が続いた。
霧島 唯人
霧島 唯人
……なんで、そんなこと言うの?
その声は怒ってるわけでも、こまってるわけでもない、淡々としたものだった。
(なまえ)
あなた
……私の友達がね、紗穂さんっていう人の中学の後輩で
(なまえ)
あなた
その人のSNSの投稿を見たら、唯人くんらしき人が一緒に映ってて……
(なまえ)
あなた
昨日、私と別れた後、
……水族館に行ってた?
霧島 唯人
霧島 唯人
……
電話の向こうの唯人くんは、私の言葉に何も答えない。
(なまえ)
あなた
(……否定しないんだ)
嘘でもいいから、違うって言ってくれれば、少しは救われるのに。
霧島 唯人
霧島 唯人
……ごめん
謝られて、もっと辛くなった。
(なまえ)
あなた
……彼女がいるのに、どうして私と付き合うって言ったの?
霧島 唯人
霧島 唯人
それは……、
君に告白された時、純粋に付き合ってみたいって思ったからだよ
(なまえ)
あなた
彼女がいるのに……?
私の疑問には答えず、唯人くんは開き直ったように言った。
霧島 唯人
霧島 唯人
……で?
あなたちゃんはどうしたい?
(なまえ)
あなた
えっ?
(なまえ)
あなた
どうしたいって言われても……
まだ気持ちの整理がつかないのに、すぐに答えられるわけがない。 
霧島 唯人
霧島 唯人
別れる?
それとも、このまま付き合う?
(なまえ)
あなた
え?
予想外の展開に、頭が全く追いついていかない。
(なまえ)
あなた
このまま付き合うって……、
もう一人の彼女とは別れるってこと?
霧島 唯人
霧島 唯人
……わからない
唯人くんの言葉に、ギョッとなる。
(なまえ)
あなた
わからないって……
(なまえ)
あなた
じゃ、これからも、両方と付き合っていくの?
霧島 唯人
霧島 唯人
……だって、どっちも好きなんだから、僕には選べないよ
(なまえ)
あなた
選べないって……
なんとも無責任なセリフに、あいた口が塞がらない。
(なまえ)
あなた
……別れます
考える間もなく、ポロリと、口から出てきた。
霧島 唯人
霧島 唯人
そっか。
じゃあ、別れよう
(なまえ)
あなた
あまりにもあっさり言われて、びっくりしていると、
霧島 唯人
霧島 唯人
じゃあね
その言葉とともに、プツッと電話は切れた。
(なまえ)
あなた
あ……
(なまえ)
あなた
もう、終わっちゃったの……?
私は、通話モードの終了したスマホの画面を見つめた。
(なまえ)
あなた
こんなに簡単に、別れちゃうんだ……
(なまえ)
あなた
ははっ……
ちっともおかしくないのに、笑えてきた。

やっとつかんだ幸せは、一週間と持たなかった。
スマホの画面は唯人くんとのトーク画面に戻っていて、昨日までの楽しいやりとりが目に入る。
(なまえ)
あなた
私はそれをまともに見られなくて、すぐにトークルームを非表示にした、
(なまえ)
あなた
……私、バカだなぁ
(なまえ)
あなた
フラれガールの私が、学校一のモテ男子に本気にされるわけないのにね
唯人くんの笑顔とともに、情けないやら、悔しいやら、いろんな感情が湧き上がってくる。

布団にくるまってぎゅっと目を閉じた私は、声を殺しながら一人で泣いた。

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