そして迎えた日曜日。
今日は記念すべき、人生で初めてのデート!
今朝は早起きして、何時間もかけて身支度したから、髪の毛も服もばっちり。
待ち合わせの駅で、二十分前から待機していると、到着した電車から降りてくる人の中に、唯人くんの姿を見つけた。
大勢の人の中でも、唯人くんだけが輝いて見える。
白と黒のモノトーンコーデに、センスの良いキャップやピアスをうまく合わせていて、アパレルショップの店員さんみたい。
唯人くんを目で追っていると、近くにいた女子たちも、イケメンな唯人くんに気づきはじめた。
私は二人の会話を聞きながら、一人でニンマリしてしまう。
胸を張っていると、まもなくして唯人くんが私に気づいてやってきた。
はりきって言うと、唯人くんは柔らかく笑ってくれた。
遠巻きに、さっきの女子二人が私を羨ましそうに見ているのが、わかった。
* * *
駅から歩いて、うちのカラオケボックスの前までやってきた。
唯人くんと笑いながら店に入ると、カウンターには優菜ちゃんがいた。
唯人くんが微笑んだ途端、優菜ちゃんはパチパチと目を瞬いて、固まった。
はっと我にかえった優菜ちゃんは、動揺を振り払うようにリモコンやおしぼりの準備を始めた。
そうして私がドリンクのコップを取りに厨房に入ると、優菜ちゃんがあわてて入ってきた。
優菜ちゃんは興奮した様子で言った。
そして私は、オレンジジュースとコーラの入ったコップを持って、厨房を出た。
* * *
唯人くんが歌い終わると、私は拍手を送る。
感動しながら唯人くんを見ると、優しく微笑んでくれる。
照れ笑いしていると、耳になじみのあるイントロが流れ始める。
ふと、帝先輩の歌を思い出す。
時に激しく、時に切なく、聞いてる人の感情を揺さぶる。
そう思って、唯人くんの歌に集中するけど、どうしても『Polaris』を聞くと、帝先輩の歌声を思い出してしまう。
そして、唯人くんが歌い終えると、私は立ち上がって言った。
いきなりの提案に、唯人くんはびっくりしていたけど、私は構わず続けた。
口から出まかせで、それとなく理由をつけて説明すると、唯人くんはうなずいて言った。
心の中でもう一度、唯人くんに謝った。
そうして、私たちは店を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。