第6話

歌い手は高校生
11,035
2023/01/10 11:00
月曜日のお昼休み。

教科委員の仕事を終えた私は、職員室を出て、渡り廊下を歩いていた。
(なまえ)
あなた
(先週はいろいろあったなぁ……)
天野先輩に失恋して、一人カラオケしてたら、帝さんが飛び込んできて。

そのまま帝さんの配信見てたら、今度は私の曲を作るなんて言われるし。
(なまえ)
あなた
(いろいろありすぎて、もう失恋の悲しみなんて、どこかに吹っ飛んじゃったよ)
彼らのおかげというか、なんというか。

ふうっとため息をついて顔を上げると、前から歩いてくる三人の男子生徒が目に入った。
(なまえ)
あなた
ん?
その中の一人に、思わず目が釘付けになる。
(なまえ)
あなた
み、帝さん!?
吉村 帝
吉村 帝
え?
思わず叫んだ私に、帝さんはその場に固まった。
(なまえ)
あなた
私のこと、覚えてます?
先週、カラオケボックスで……
そこまで言うと、帝さんはハッとして、ダッシュで私に駆け寄ってくる。
吉村 帝
吉村 帝
ああ!
あの時は、本当にありがとう!
わざとらしいほどの爽やかな笑顔を向けられて、ものすごく違和感を感じた。
(なまえ)
あなた
……え?
吉村 帝
吉村 帝
いやぁ、あの日は本当に助かったよ
(なまえ)
あなた
助かったって、なんの話……?
私の言葉をさえぎるように、帝さんがギロリとにらみつけてくる。
(なまえ)
あなた
(ひえっ!)
無言の圧をかけられた私は、それ以上何も言えなくなってしまう。

すると帝さんは、一緒にいた二人の友達に、穏やかに声をかけた。
吉村 帝
吉村 帝
あ、悪いけど先に行ってて
男子生徒1
わかった。
先、行ってる
そうして、二人が立ち去るのを見送っていると、腕をつかまれ、すぐそばにあった多目的室に連れ込まれる。

室内に誰もいないことを確認すると、帝さんはおもむろに口を開いた。
吉村 帝
吉村 帝
……おい、なんでお前がここにいる?
誰もいなくなった途端、帝さんはあの日と同じ俺様口調になった。
(なまえ)
あなた
なんでって、職員室に行った帰りで……
(なまえ)
あなた
っていうか、帝さん、同じ学校だったんですか!?
吉村 帝
吉村 帝
それは俺のセリフだ!
吉村 帝
吉村 帝
面倒くせぇな……。
学校では誰にも歌い手のことは話してねーのに
(なまえ)
あなた
歌い手だってこと、秘密なんですか?
吉村 帝
吉村 帝
まぁな。
歌い手の多くは社会人や学生だから、プライベートを守るためにも、わざわざ公表しないし、顔出しもしない
吉村 帝
吉村 帝
ま、売れっ子は別だけどな
吉村 帝
吉村 帝
俺も平穏な高校生活を守るために、秘密にしてる
(なまえ)
あなた
そうだったんですか……
吉村 帝
吉村 帝
だからお前も、絶対に俺の正体をばらすなよ?
そう言って、帝さんは怖い顔のまま、私の頬をむぎゅーっと引っ張った。
(なまえ)
あなた
い、いひゃい!
わ、わかりまひたってば
私が承諾すると、ようやく手を離してくれる。
吉村 帝
吉村 帝
あなたは、何年何組?
(なまえ)
あなた
二年五組です。
帝さんは?
吉村 帝
吉村 帝
俺は三年一組だ。
まさか後輩だったとはな
(なまえ)
あなた
私だって、びっくりですよ!
吉村 帝
吉村 帝
いいか、学校では、絶対にSimの名前を出すんじゃねーぞ?
(なまえ)
あなた
わかりましたよ。
じゃあ、なんて呼べばいいんですか?
吉村 帝
吉村 帝
帝でいい
(なまえ)
あなた
じゃ、帝先輩……とか?
吉村 帝
吉村 帝
ああ
(なまえ)
あなた
あれっ、もしかして颯さんも同じ学校ですか?
吉村 帝
吉村 帝
いや、あいつは違う学校だ
吉村 帝
吉村 帝
……それにしても、これまでずっと隠し通してきたのに、今頃バレるとはな。
油断した
(なまえ)
あなた
安心してください。
誰にも言うつもりはないんで
吉村 帝
吉村 帝
絶対だぞ!?
(なまえ)
あなた
……帝先輩、学校では俺様キャラじゃないんですね
吉村 帝
吉村 帝
当たり前だ。
学校ではなるべく目立たないよう、穏やかに過ごしてるからな
吉村 帝
吉村 帝
将来、有名な歌い手になった時、同級生から性格が悪かったと暴露されたら困るだろ?
(なまえ)
あなた
そんなことまで考えてるんですね……
(なまえ)
あなた
(自分でも、性格が悪いのは自覚してるんだ)
(なまえ)
あなた
じゃあ、もうちょっと私にも優しくしてくださいよ
吉村 帝
吉村 帝
お前に優しくしても、メリットは無い
(なまえ)
あなた
メリット!?
吉村 帝
吉村 帝
けど、オリジナル曲を作るためにはお前のフラれネタが必要だからな
吉村 帝
吉村 帝
そうだ、明日の夜、カラオケボックスに行ってもいいか?
いろいろ話を聞きたい
(なまえ)
あなた
明日の夜?
別に、いいですけど……
吉村 帝
吉村 帝
決まりだな。
颯と七時くらいに行く
(なまえ)
あなた
わかりました
吉村 帝
吉村 帝
じゃ、もう俺は戻る。
お前と変な噂になっても困るしな
(なまえ)
あなた
え?
吉村 帝
吉村 帝
まぁどうせ、俺に告ってフラれたかわいそうな後輩、って思われるのがオチだろうが
(なまえ)
あなた
なっ!?
ひどーい!
私の言葉に答えることなく、帝先輩はさっさと多目的室を出て行った。
(なまえ)
あなた
帝先輩のことなんて、絶対に好きになりませんから!!
すでに見えなくなったその姿に向かって、私は思いきり毒づいた。

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