サッカー部の天野先輩は、私の突然の告白に驚いて、言葉を失っているようだった。
天野先輩は、そう言ってはにかんだ。
ドキドキしながら、先輩の言葉の続きを待っていると、
盛り上がった気持ちが急速に冷めていく。
申し訳なさそうな顔をした先輩に、私はぶんぶんと首を横に振った。
私はいたたまれなくなって、猛ダッシュでその場から走り去った。
* * *
いったん家に帰ったものの、一人でいるのは寂しすぎて、私は両親が経営するカラオケボックス『Jardin』にやってきた。
カウンターから声をかけると、アルバイトの優菜ちゃんが奥から出てきた。
優菜ちゃんは、この店でアルバイトをしている二十三歳のフリーター。
ショートカットで童顔な優菜ちゃんは、見た目だけなら女子高生でも通ると思う。
涙声で訴えた私に、優菜ちゃんはすぐにピンときたようで、
優菜ちゃんの言葉に、私はこくりとうなずいた。
じわりと涙がにじんで鼻をすすると、優菜ちゃんが、よしよしと頭を撫でてくれる。
そう言って、優菜ちゃんはカウンターの下から、彼女が大好きな歌い手『リアムくん』のイラストが入ったうちわを出した。
優菜ちゃんは、うちわに描かれたリアムくんに、チュッと口づけした。
二十三歳、彼氏なしの優菜ちゃんは、人気歌い手グループ『ソアラ』にはまっていて、アルバイトで稼いだお金のほとんどを推し活に費やしている。
また天野先輩にふられたことを思い出して、がっくりとうなだれた。
話が一段落したところで、ちょうどお客さんが入ってきたので、私はあわててカウンター前から移動した。
接客用の笑顔を浮かべた優菜ちゃんが、こっそり耳打ちしてくれる。
私はカウンターの奥のスタッフルームに入ると、部屋の使用状況を確認する。
見れば、四階が機械のメンテナンスで、客は入れないようにしてある。
私はそのまま、階段を駆け上った。
* * *
私はふられた腹いせに、叫ぶように歌った。
いきなり部屋のドアがバタンと開けられたかと思うと、若い男の人が怒鳴り込んでくる。
あんまりにも理不尽なその内容に、私はぽかんとしてその男の人を見つめることしかできなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。