駅で唯人くんとバイバイしたあと、私は一人でデートの余韻に浸っていた。
カラオケボックスを出た後、私たちは公園でお弁当を食べたりベンチで喋ったりして、楽しい時を過ごした。
公園にいる時も、道で歩いている時も、同世代の女子とすれ違うたびに、誰もが唯人くんを目で追っていた。
言い知れぬ優越感とともに、あらためて自慢の彼氏ができた喜びをかみしめる。
公園で撮った、唯人くんとのツーショットを見返して、幸せな気持ちになる。
唯人くんはこのあと用事があって、三時にデートはお開きになった。
そう自分に言い聞かせて、家に帰ろうとしたけど、帰るにはまだ早い。
私が手持ち無沙汰で、駅前をぶらぶら歩いていると、
向こうから声がして、見れば颯さんと帝先輩がいる。
すると、後から帝先輩もやってきた。
意地悪そうな笑顔に、
思わず言い返すと、ふっと肩の力が抜けた気がした。
新しいSimの動画への期待で、心が踊る。
颯さんはスマホを片手に、慌てて駅へと向かっていった。
訳がわからないまま、私は帝先輩を追いかけて歩き始めた。
* * *
連れられてきたのは、女子に人気のアクセサリーショップだった。
女子であふれかえる店内に、帝先輩はずかずかと入っていく。
後をついていくと、たくさんのアクセサリーが並ぶ棚の前で立ち止まった。
びっくりして、帝先輩とアクセサリーを交互に見ると、
そうして、私はあれこれ悩んだあげく、ピンクゴールドのチェーンに、小さいハートとお花がついたネックレスを選んだ。
手に取って見せると、
そう言って、帝先輩はネックレスを取ると、レジへと向かう。
落ち着かないまま、帝先輩がお会計を済ませるのを見届けて、私たちは店の外へと出た。
そのまま、黙って駅ビルの連絡通路を渡っていると、帝先輩がくるりとふり返って、さっきのネックレスを私に差し出した。
突然のことに戸惑いつつも、私は差し出された白い箱を両手で受け取った。
すると、帝先輩はネックレスの箱をじっと見つめた。
そうして私は、きれいにラッピングされた箱を開けてネックレスを出すと、首の後ろに回した。
穴の位置がわからず悪戦苦闘していると、帝先輩が呆れて私のネックレスを取り上げた。
そう言って、背後からネックレスをつけてくれる。
首の後ろが、くすぐったい。
すぐうしろに感じる帝先輩の気配に、心臓の鼓動が速くなる。
ネックレスのチェーンの内側に入っていた髪の毛を、そっと出してくれた。
その仕草に、さらに心臓がドキッと跳ねる。
帝先輩は私の前に回ると、ネックレスを見つめた。
すると、帝先輩ははっとして、少し声のトーンを落とした。
いつもと違う様子に違和感を感じていると、帝先輩は少し顔を赤くして、ぼそっとつぶやいた。
突然の褒め言葉に、うっかり私まで顔が赤くなってしまう。
いつもより優しい響きに、心臓の鼓動が勝手に速くなる。
私は少しためらってから、正直に打ち明けた。
帝先輩は、私の言葉に目を見開いた。
帝先輩はそれ以上、何も言わなかった。
しばらく変な沈黙が流れた後、
ヒュッと胸の辺りが冷たくなった。
帝先輩は感情のない、冷めた眼差しで私を見て言った。
冷たい言葉が、胸に突き刺さる。
なんとなく、わかっていた。
彼氏ができたら、きっと、帝先輩とのつながりはなくなるんだろうって。
帝先輩は短く言うと、固まったままの私を置いて去っていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。