第17話

まさかのサプライズ
4,507
2023/03/28 11:00
(なまえ)
あなた
あ〜、今日は幸せだったなぁ
駅で唯人くんとバイバイしたあと、私は一人でデートの余韻に浸っていた。

カラオケボックスを出た後、私たちは公園でお弁当を食べたりベンチで喋ったりして、楽しい時を過ごした。
公園にいる時も、道で歩いている時も、同世代の女子とすれ違うたびに、誰もが唯人くんを目で追っていた。
(なまえ)
あなた
(ふふーん。
みーんな、唯人くんに見とれてたよね?)
言い知れぬ優越感とともに、あらためて自慢の彼氏ができた喜びをかみしめる。
(なまえ)
あなた
(これまで、フラれ続けたかいがあったよ……!)
公園で撮った、唯人くんとのツーショットを見返して、幸せな気持ちになる。
(なまえ)
あなた
(本当はもっと一緒にいたかったけど……)
唯人くんはこのあと用事があって、三時にデートはお開きになった。
(なまえ)
あなた
ま、いっか。
これから何度だって会えるんだし
そう自分に言い聞かせて、家に帰ろうとしたけど、帰るにはまだ早い。
(なまえ)
あなた
今からどうしよっかな。
優菜ちゃんに今日のこと話したいけど、日曜日の午後はお店が忙しいだろうなぁ
私が手持ち無沙汰で、駅前をぶらぶら歩いていると、
相良 颯
相良 颯
あなたちゃん!
(なまえ)
あなた
え?
向こうから声がして、見れば颯さんと帝先輩がいる。
相良 颯
相良 颯
すごい偶然だね。
今、一人?
(なまえ)
あなた
あ、はい
すると、後から帝先輩もやってきた。
吉村 帝
吉村 帝
こんなところで何してんだよ
(なまえ)
あなた
何って、ちょっとぶらぶらしてただけです
吉村 帝
吉村 帝
ヒマな奴だな
意地悪そうな笑顔に、
(なまえ)
あなた
ヒマ人扱いしないでくださいよ
思わず言い返すと、ふっと肩の力が抜けた気がした。
(なまえ)
あなた
(あれっ、ずっと唯人くんといたから、緊張してた?)
(なまえ)
あなた
(帝先輩には、全く気を使わなくていいもんね)
吉村 帝
吉村 帝
こっちは、朝からずっとスタジオで歌録りしてたってのに
(なまえ)
あなた
えっ?
もしかして新曲ですか?
相良 颯
相良 颯
次の歌ってみたの録音をしてたんだ。
さっき終わったところだよ
(なまえ)
あなた
わぁ!
早く聴きたい!
新しいSimの動画への期待で、心が踊る。
吉村 帝
吉村 帝
納得いくまで録り直して、いい歌が録れた
吉村 帝
吉村 帝
あとは颯が神的なミックスをしてくれるから、楽しみに待ってろよ
(なまえ)
あなた
はい!
すっごく楽しみです!
相良 颯
相良 颯
帝、さっきの話
吉村 帝
吉村 帝
あ、そうだな……
吉村 帝
吉村 帝
あなた、今から少し時間ある?
(なまえ)
あなた
え?
特に用事はないですけど
相良 颯
相良 颯
よかった。
じゃあ帝、後はよろしくね
相良 颯
相良 颯
思ったよりも録音が長引いたから、のんちゃんがご機嫌ななめで……、
もう行くね!
颯さんはスマホを片手に、慌てて駅へと向かっていった。
吉村 帝
吉村 帝
かまちょの相手も楽じゃねーな。
じゃ、行くぞ
(なまえ)
あなた
はい
訳がわからないまま、私は帝先輩を追いかけて歩き始めた。

* * *
(なまえ)
あなた
あれ?
ここって……
連れられてきたのは、女子に人気のアクセサリーショップだった。
吉村 帝
吉村 帝
入るぞ
(なまえ)
あなた
えっ?
女子であふれかえる店内に、帝先輩はずかずかと入っていく。

後をついていくと、たくさんのアクセサリーが並ぶ棚の前で立ち止まった。
吉村 帝
吉村 帝
好きなやつ、選べよ
(なまえ)
あなた
選べって……
びっくりして、帝先輩とアクセサリーを交互に見ると、
吉村 帝
吉村 帝
オリジナル曲に協力してくれたお礼だよ
吉村 帝
吉村 帝
颯の彼女に聞いたら、この店がいいんじゃないかって
(なまえ)
あなた
お礼なんて、そんな……!
もっと安いものでいいですよ!
吉村 帝
吉村 帝
遠慮すんな。
俺だって歌い手として、配信や動画でけっこう稼いでるんだよ
(なまえ)
あなた
だけど……
吉村 帝
吉村 帝
やるって言ってんだから、早く選べ
(なまえ)
あなた
は、はいっ!
ありがとうございますっ!
そうして、私はあれこれ悩んだあげく、ピンクゴールドのチェーンに、小さいハートとお花がついたネックレスを選んだ。
(なまえ)
あなた
これで、いいですか?
手に取って見せると、
吉村 帝
吉村 帝
ふーん。
いいんじゃねーの?
そう言って、帝先輩はネックレスを取ると、レジへと向かう。
(なまえ)
あなた
(プチプラとはいえない値段だったけど、本当に買ってもらっちゃってよかったのかな)
落ち着かないまま、帝先輩がお会計を済ませるのを見届けて、私たちは店の外へと出た。


そのまま、黙って駅ビルの連絡通路を渡っていると、帝先輩がくるりとふり返って、さっきのネックレスを私に差し出した。
吉村 帝
吉村 帝
ほら、やるよ
(なまえ)
あなた
えっ?
(なまえ)
あなた
(ここで!?)
突然のことに戸惑いつつも、私は差し出された白い箱を両手で受け取った。
(なまえ)
あなた
あ、ありがとうございます!
すると、帝先輩はネックレスの箱をじっと見つめた。
吉村 帝
吉村 帝
……それ、付けてみろよ
(なまえ)
あなた
今ですか?
(なまえ)
あなた
……そうですよね、せっかくだから、帝先輩がいるうちにつけてみようかな
そうして私は、きれいにラッピングされた箱を開けてネックレスを出すと、首の後ろに回した。
(なまえ)
あなた
あれ?
なかなか、はまらない……
穴の位置がわからず悪戦苦闘していると、帝先輩が呆れて私のネックレスを取り上げた。
吉村 帝
吉村 帝
しょうがねぇなぁ。
つけてやるよ
(なまえ)
あなた
え?
そう言って、背後からネックレスをつけてくれる。
(なまえ)
あなた
首の後ろが、くすぐったい。
すぐうしろに感じる帝先輩の気配に、心臓の鼓動が速くなる。
(なまえ)
あなた
(なんか緊張しちゃうな……)
吉村 帝
吉村 帝
……できた
ネックレスのチェーンの内側に入っていた髪の毛を、そっと出してくれた。

その仕草に、さらに心臓がドキッと跳ねる。
(なまえ)
あなた
(なまえ)
あなた
(私だけ、何ドキドキしてるんだろ?)
吉村 帝
吉村 帝
ふぅん……
帝先輩は私の前に回ると、ネックレスを見つめた。
(なまえ)
あなた
ど、どうですか?
似合ってます……、か?
吉村 帝
吉村 帝
悪くねぇよ
(なまえ)
あなた
あれっ……?
いつも辛口なのに、珍しいですね
吉村 帝
吉村 帝
はぁ?
別にいいとも言ってねぇよ!
悪くないって言っただけで……
(なまえ)
あなた
別に、無理に褒めなくてもいいですけど
すると、帝先輩ははっとして、少し声のトーンを落とした。
吉村 帝
吉村 帝
……ちがう、そうじゃなくて
(なまえ)
あなた
いつもと違う様子に違和感を感じていると、帝先輩は少し顔を赤くして、ぼそっとつぶやいた。
吉村 帝
吉村 帝
結構、かわいい、と思う……
(なまえ)
あなた
えっ……?
突然の褒め言葉に、うっかり私まで顔が赤くなってしまう。
(なまえ)
あなた
なっ?
帝先輩、いつもとキャラ違くないですか?
(なまえ)
あなた
も、もしかして、またシチュエーションボイスの練習ですか?
吉村 帝
吉村 帝
そんなんじゃねーよ
いつもより優しい響きに、心臓の鼓動が勝手に速くなる。
(なまえ)
あなた
(帝先輩……?)
吉村 帝
吉村 帝
っていうか、お前、いつもと雰囲気が違うよな
吉村 帝
吉村 帝
今日、何かあった?
(なまえ)
あなた

それは……
私は少しためらってから、正直に打ち明けた。
(なまえ)
あなた
今日は、一応デートだったので……
吉村 帝
吉村 帝
……え?
帝先輩は、私の言葉に目を見開いた。
吉村 帝
吉村 帝
デート……って、誰と?
(なまえ)
あなた
三年の霧島唯人くん、知ってますか?
吉村 帝
吉村 帝
霧島……?
ああ、そういえば去年一緒のクラスだったけど
吉村 帝
吉村 帝
まさか、あいつと付き合ってんの?
(なまえ)
あなた
はい。
先週の金曜日に告白したら、オッケーもらえて……
(なまえ)
あなた
絶対フラれると思ったんですけど、なぜか付き合ってくれることになって
吉村 帝
吉村 帝
へぇ……
帝先輩はそれ以上、何も言わなかった。

しばらく変な沈黙が流れた後、
吉村 帝
吉村 帝
ふーん。
よかったな
吉村 帝
吉村 帝
とうとう、フラれガールは卒業か
(なまえ)
あなた
そう、ですね
吉村 帝
吉村 帝
じゃ、もうお前のことで曲を作る事はなくなるな
(なまえ)
あなた
えっ……?
ヒュッと胸の辺りが冷たくなった。

帝先輩は感情のない、冷めた眼差しで私を見て言った。
吉村 帝
吉村 帝
リア充のお前には、興味ねぇ
(なまえ)
あなた
冷たい言葉が、胸に突き刺さる。
(なまえ)
あなた
(優菜ちゃんの言った通りだ……)
なんとなく、わかっていた。

彼氏ができたら、きっと、帝先輩とのつながりはなくなるんだろうって。
吉村 帝
吉村 帝
じゃあな
(なまえ)
あなた
あ……
帝先輩は短く言うと、固まったままの私を置いて去っていった。

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