ある住宅街で一際目を引く脆い一軒家
灯りは薄暗く,どこか恐怖を感じる雰囲気だ.
「5分後,部屋に来い」
家の中ではそんな声が聞こえる
──きっとそれは父親の声だったのだろう
高校1年生の美しい少女が敬語で応答する
すぐに父親は自室に行き,リビングには少女の他に人影すらない
母親は精神状態の関係で病院に入院しているらしい.
ふと服の袖を括ると,無数の切り傷の跡や痣が浮かぶ腕
どれだけ追い詰められた環境なのかはこれだけで十分に伝わる
──そして古い時計はまもなく深夜11時半を指そうとする
彼女にとって日課のように殴られる時間が迫りつつある
少し広いリビングから廊下に渡るとすぐに個室が数室.
1番手前の左手側にあるドアに手をかける
優しく2回「コン、コン」とノックして部屋に入る
──同時に
腹部に振り落とされる拳は凄まじい勢いだった
「どれだけ遅れれば気が済むんだよッ」
次は右頬にビンタを
身体中をひたすらに殴っては蹴る
それを繰り返していくうちに痛みは薄れていくようで
「味っけねぇな,」
そのまま飽きたら突き放される
食事は一日一食
昼食にコンビニで買うパンやおにぎり1個くらい
……精神は限界を迎えようとしている
暖房もつかずに凍えた部屋の廊下
立ち尽くしながら放った一言は静かな空間に飲み込まれていった.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。