─家へ向かう間も沈黙は続く.
気まずくてしょうがない,という顔が野田と西崎は
ハッキリと顔に出ている
その様子を桑原が感じ取ったかのように声をかける.
…緊張をほぐすような一言を放つと期待していたが,
それは全くほぐすわけでもなく
より緊張してしまうのではないかという質問
あまりに驚いたせいか,2人声を揃えてすっと立ち止まる
すぐにコツっとデコピンを食らわせる野田
子供っぽい面は変わらない
なんとも呑気に答える桑原
マイペースっぽい性格が身に染みて分かる
すぐに野田がまた一言.
「バカヤロー」とケラケラ笑いながら.
それに対して桑原は「あっ」と声を上げる
野田も「余計なお世話だわ」とまた一言
“2人は相当の仲良しなんだ”
その時,西崎はそう実感した
当然,話に割り込むタイミングも皆無.
やっとこちらから質問ができたかと思うと,
お互い肩を組み合ってにひっと笑う
「なぁ?」と話しかける野田
「おう!」と元気よく答える桑原
この2人,もはや仲のいい小学生…
そう疑ってしまっても良いくらいだった
─話に夢中となっているうちに,
灯りのよく灯るちょっとした住宅街を歩いていた.
桑原が指さした先には「野田」と書かれた看板の立つ大きな家
2,3階建ての立派な建物だ
─家のドアに鍵はかかってなく,既にリビングには電気がついていた
遠慮気味に玄関へ入ろうとしていた時,
騒がしい足音がこちらへと近付いてくる.
顔の整った小柄な男性が野田にもたれ掛かる
早々に言葉を噛んでいたのはなかったこと──.
すぐに西崎の方に視線を移し,驚きで1歩後ずさる
野田と桑原はすぐに誤解を解くように2人がかりで説明を始めた.
最初はまさに脳内が「驚」で埋め尽くされていたような顔も,
次第に納得顔になっていくのがわかる
「しょうだったんだ…」と話を理解すると再び,
先程とは違う“優しい”眼差しを向ける
____室内はお洒落な時計にお洒落な服
何もかもが美しく,家具一つ一つに魅力があるように感じる
リビングに置かれたふかふかのソファに腰がけると,
すぐに問われる
人柄はたいへん良さそうだ
遅れてリビングに入った桑原と野田
桑原がすぐさま否定する
「うるしゃい!」と一言
…顔はイケメンだけど滑舌が…
そう少し残念に思ってしまった西崎
すぐに はっ と我に返る
「うんッ」と勢いよく頷くと,
すぐにまた疑問を持ったような表情をうかべる
3人の間ですぐに話が広がる.
……が
─ただ家に来るだけだったはず
いつの間に「泊まる」まで話が進んでいたのだろうか
服も何も持っていない手ぶら状態で泊まれるわけもないのに
自分の告発も揉み消し
泊まる前提の話になっている
「お願い!」と頼み込む桑原
…そこまで泊まって欲しいと思うことも疑問だが.
わいわいと一気に空気が弾む
“…この人達,愉快だな”
なんとも微笑ましい光景だった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!