第14話

もう無理。美月ちゃんのこと、好きすぎる。
鼓膜をくすぐる切実な声に、
かああっと顔が熱くなる。
泉沢 美月
泉沢 美月
ま、また私をからかって──
お腹に回る春の腕を振り解こうとしたとき、
手首を掴まれた。

そのまま強く掴まれた手を後ろに引かれ、
私は無理やり春の方へと身体の向きを変えられる。
結城 春
結城 春
からかってないから!

春は強い口調でそう言うと、
今度は私を真正面から抱きしめる。
結城 春
結城 春
もう無理、普通に無理。
俺、どんどん美月ちゃんのこと
好きになってんだよ
泉沢 美月
泉沢 美月
それ、冗談だったんじゃ……
結城 春
結城 春
そう言わないと、
離れてくでしょ!
それになにも言えなくなっていると、
春は「やっぱり……」とこぼす。
結城 春
結城 春
でも、もうごまかせないくらい
好きだ。俺の本当の彼女になって……
切ない声の響きが
私の胸を締めつける。

(こんな感情、知らない……)

私は動揺しながら、
春の顔を見つめる。

そのときだった、
春の手が私の髪に触れる。
結城 春
結城 春
……あれ? 
これって、ウィッグ?
泉沢 美月
泉沢 美月
……!
ウィッグに気づかれた私は、
勢い良く頭を押さえるも──。

ぱさっと音を立てて、
ウィッグが絨毯の上に落ちる。
結城 春
結城 春
え──これ、どういう……
泉沢 美月
泉沢 美月
帰る
ウィッグを手に立ち上がると、
私は逃げるように春の家を飛び出す。

(油断してた。
この頭を見たら、不審に思うよね)

(春には知られたくなかった)

(かわいそうな子として見られるのも、
病気だからって変に気遣われるのも嫌なのにっ)
泉沢 美月
泉沢 美月
ただ、普通の高校生で
いたかっただけなのにっ
無我夢中で走っていると、
気づいたら駅の近くにある遊歩道まで来ていた。

じわっと目に涙が滲み、
私は立ち止まる。
泉沢 美月
泉沢 美月
ううっ……
その場に崩れ落ちると、
誰もいないのをいいことに泣いた。

そのとき、背後で足音が聞こえた。

ゆっくり振り返ると、
そこには──。
結城 春
結城 春
美月ちゃん!
春がいた。

私の顔を見て、目を見開いている。
結城 春
結城 春
どうしたの?
なんで泣いて……
春はすぐに、私の目の前でしゃがみ込む。
泉沢 美月
泉沢 美月
な、なんでもないからっ。
放っておいてっ
結城 春
結城 春
放っておけるわけねえだろ!
強く抱き寄せられて、
春の胸に顔を埋める格好になる。
泉沢 美月
泉沢 美月
離して!
じたばたと慌てるけれど、
春は離してくれない。
結城 春
結城 春
泣いてる好きな子置いて、
帰るとかできねえって
泉沢 美月
泉沢 美月
ううっ、迷惑なの!
好きとか、そういうのっ
結城 春
結城 春
美月ちゃんが迷惑でも、
やっぱ離したくない
ぎゅうっとさらに強く抱きしめてくる春に、
徐々に身体から力が抜けていく。
結城 春
結城 春
なにがあったのか、とか。
聞かないから
その優しい声音に、
今度は温かい涙がこぼれ落ちる。
結城 春
結城 春
そばにいさせて。
偽装じゃないとそばにいちゃダメっ
て言うなら、それでもいいから
泉沢 美月
泉沢 美月
なんで、そこまでして……
結城 春
結城 春
好きな子がこんなに弱ってて、
守りたいって思うでしょ、普通
(好きな子……)

鼓動が少しずつ速まっていく。

目の前にある必死な春の顔を見れば、
本心であることはわかった。

(でも、春の気持ちは受け入れられない)
泉沢 美月
泉沢 美月
チャラ男の言葉なんて信じない
(私は、春を置いていく人間だから。
私自身も、大切な人は作りたくないから──)
結城 春
結城 春
それでもいい。俺の腕の中で
泣いてくれれば、ちゃんと甘えて、
頼ってくれれば、それで