第18話
もう逃げない
【春side】
美月ちゃんが倒れた日から、
1週間が経った。
授業の合間の10分休憩。
俺が机に突っ伏していると、
前の席の誠が振り返る。
ガツンッと殴られた気分だった。
頭が真っ白になっていると、
誠は厳しい顔つきで告げる。
(信じたくない、そんなこと)
(俺は……美月ちゃんのことより、
自分が可愛かったってことか)
(拒まれたら、傷つきたくないからって、
のこのこ帰ってきて……)
(押しに弱い美月ちゃんのことだから、
いつか通ってるうちに会ってくれるかもなんて、
甘えた)
中学1年のとき、彼女を守れなかった自分。
そこから少しも成長できていない。
あの日、彼女から責められた俺は、
向き合うことから逃げた。
(俺といたら不幸になる。
なら、別れた方がいいって、
そう自分に言い聞かせて……)
(本当は、また拒絶の言葉を聞くのが
怖かった)
(だから、あたかも相手のためを装って、
俺は自分から大切な人を手放したんだ)
(もう、手放してたまるか。
美月ちゃんだけは、失いたくない)
俺は鞄を肩にかけると、
仮病で学校を早退した。
***
そうして意気込んで病院に行くと、
案の定……。
(これは想定内だ)
お母さんの申し訳なさそうな顔と口ぶりに、
美月ちゃんは体調が悪いから
会いたくないのではなく、
俺に会いたくないのだと悟る。
(美月ちゃん、こっちが近づきすぎると、
急に距離を取ろうとするからな)
大事なものを作るのを
怖がっているかのように──。
そう言い募れば、お母さんは困ったように笑って、
病室の番号を教えてくれた。
俺はお辞儀をして、
美月ちゃんのもとへと走る。
(待ってて。俺が必ず、美月ちゃん
の心の扉、開いてみせるから──)
***
【美月side】
(会えないって、
言ったはずなのに……)
扉越しに聞こえてくる声に、
目元が熱くなる。
(春……)
胸に込み上げてくるのは、
嬉しさと苛立ち。
私はそう言いながらも、
怠い身体を引きずって、
病室の扉の前に立つ。
(え……)
春の言葉に、心臓を鷲掴みに
されたような痛みが胸に突き刺さる。
(もう、会いに来ない?)
自分から会いたくないって言ったくせに、
私はショックを受けていた。
(私、心のどこかで……。
春はどんなに突き放しても、
私に会いに来てくれるって、そう思ってたんだ)
甘えていた自分が、心底嫌になる。
(でも、縛りつけたくない。
未来のない私に)
(離れたくないんだ。
その気持ちを偽ってた)
絞り出すようにそう言って、
目の前の扉に手をつく。
すると──。