少しの間のあとに、それだけ言って、
私は夕日が乱反射する川を眺める。
(綺麗だな……)
(もう二度と、この景色を見ることは
ないかもしれないんだよね)
そう思うと、急に切なくなる。
突然、目の前に春が回り込んでくる
(……嘘)
本当はほんの少しだけ、
終わりを意識して泣きそうになった。
けれど、私は平気なふりをして、
ごまかすのだった。
***
春と偽装カップルになって、
1週間が経った。
──昼休み。
数分前、トイレの個室に入った途端、
春のファンの子に上から水をかけられた。
おかげで、濡れネズミ状態だ。
(春の嘘つき)
『彼女も代わる代わる作ってるから、
美月ちゃんが嫉妬で傷つけられる
ことはないよ』
(被害に遭ってるんですが)
うんざりしながらトイレを出ると、
クラス委員の宮田くんと鉢合わせる。
宮田くんは私の頭のてっぺんから
足先まで見ると、
無言でブレザーを脱いで私の肩にかける。
そう言って、宮田くんは私の背に
手を添えながら歩き出す。
宮田くんが足を止めた。
春の大切なものを守りたいなんて、
まるで前に守れなかったみたいな
言い方だ。
首を横に振ると、
宮田くんは『じゃあどうして?』と
言いたげに見つめてくる。
宮田くんは、過去を見つめるかのように
遠い目で話しだす。
(どういう意味?)
眉を寄せたとき、
宮田くんに腕を引かれる。
そのまま廊下の途中にある
空き教室に引きずり込まれた。
私を抱きしめた宮田くんは、
人差し指を自分の唇に当てる。
そのすぐあと──。
──ガッと戸口に手を突き、肩を上下させ、
息を切らした春が現れる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。