第13話

キスの予感
結城 春
結城 春
美月ちゃんってさ。
ときどき、今みたいに泣きそうな顔
するよね
泉沢 美月
泉沢 美月
え……
結城 春
結城 春
なにか悩みでもあんの?
聞くくらいしかできないけど、
話したら楽になるかもよ
泉沢 美月
泉沢 美月
……な、に言ってるの?
それ気のせいだから
結城 春
結城 春
でも──
泉沢 美月
泉沢 美月
それより、ここに化粧道具が
あるってことは、美容師らしいこと
なにかできるの?
食い下がる春の気を逸らすべく、
私は話題を変えた。
結城 春
結城 春
メイクなら。
そうだ、やったげるよ
春は化粧道具を手に、
私の前に座ると──。
結城 春
結城 春
顔、上げて
春の長い指先に、
顎をクイッと持ち上げられた。
泉沢 美月
泉沢 美月
なっ──
結城 春
結城 春
美月ちゃんは元がいいから、
化粧映えするよ
春は初めに化粧水をつけたコットンで、
私の顔を軽く叩くようにする。

それから化粧下地とファンデーションを塗った。

(優しい手つき……。
本当にメイク、慣れてるんだな)
結城 春
結城 春
次、アイメイクな
泉沢 美月
泉沢 美月
なんか春、生き生きしてるね
結城 春
結城 春
だって、すげえ楽しいから。
ほら、目を閉じて
私は言われたとおりに瞼を閉じる。

アイホールになにかを塗られながら、
ふとさっきの春の顔が頭に浮かぶ。

(好きなものに熱中してるからかな。
春の目、キラキラしてた)

それを少し羨ましく思っていると……。
結城 春
結城 春
いいよ、目を開けて
瞼を持ち上げると、至近距離に春の顔がある。
結城 春
結城 春
次、口紅な
春は小指に紅をつけると、
とんとんと叩くようにして私の唇に載せる。

──トクンッ。

(あっ……春が近い)

男の子に顔を触られる経験がなかった私は、
不覚にもドキドキしてしまう。

すると、じっと見つめていたからか、
春が私の視線に気づいた。
結城 春
結城 春
あ……
目が合うと、春の動きも止まる。

自然と顔が近づいてきて、
唇が触れそうになった瞬間──。
結城 春
結城 春
ご、ごめん
春が慌てたように顔を背けた。

それを少しだけ残念だと思う自分の気持ちが、
理解できない。
泉沢 美月
泉沢 美月
ううん、平気
(私……あのまま春がやめなかったら、
キスを受け入れてた?)
結城 春
結城 春
か、鏡……鏡、見てみなよ。
すっげえ綺麗
春は私に手鏡を渡す。

鏡を覗くと、見違えるように
大人びた女の人の姿がある。
泉沢 美月
泉沢 美月
うそ、私?
別人みたい……!
感動して思わず大きな声が出た。

すると春は一瞬呆気にとられたような顔をして、
ふっと微笑む。
結城 春
結城 春
美月ちゃん、いつも澄ました
顔してんのにさ、そーいう
反応もするんだな
泉沢 美月
泉沢 美月
あ……ごめん、子供みたいに
はしゃいだりして
結城 春
結城 春
いや、俺はうれしいけど?
美月ちゃんの素が見られてさ
泉沢 美月
泉沢 美月
……っ、そういうこと……。
平気で誰にでも言ってるんでしょ
私は目を伏せて、
鏡越しに春と目が合わないようにする。
泉沢 美月
泉沢 美月
普通の女の子ならコロッと、
好きになっちゃうんだろうね
結城 春
結城 春
だったら……
春が後ろからぎゅっと抱き着いてきて、
私の耳たぶに唇を寄せる。
結城 春
結城 春
美月ちゃんがコロッと
俺を好きになる言葉、教えてよ