第15話

きみが泣いたら、俺が抱きしめてあげる
***

翌朝──。

家を出ると、春がいた。
結城 春
結城 春
おはよ、美月ちゃん
泉沢 美月
泉沢 美月
……なんでいるの?
結城 春
結城 春
偽装でも彼氏だし。
あと、好きだから。
なにか問題ある?
泉沢 美月
泉沢 美月
問題ありありだよ。
言ったよね、本気なら
偽装カップルは解消──
結城 春
結城 春
でも、守るって言ったよね?
初めはこの気持ちも隠そうって
思ったけど、俺には無理だから
泉沢 美月
泉沢 美月
……っ
結城 春
結城 春
美月ちゃんが俺を遠ざけても、
そばにいる
(チャラ男だったはずなのに……。
なんでこんなに真っ直ぐなの?
それとも、これも計算?)

そう疑いながらも、
春の優しい笑みを見たら、
作っているとは思えない。

春の気持ちに戸惑いながら、
一緒に学校に行くと──。
ファンの女の子1
ファンの女の子1
春くーんっ
ファンの女の子2
ファンの女の子2
最近、全然うちらに
付き合ってくれないじゃん
いつものように、
ファンクラブの女子に囲まれる春。

きっと、のらりくらりとかわすのだろう。
そう思っていたのに──。
結城 春
結城 春
悪いけど、もうみんなとは遊べない。
ファンクラブも、解散して
(えっ)
ファンの女の子1
ファンの女の子1
ええっ、どうしてよ!
ファンの女の子2
ファンの女の子2
その子のこと、
本当に好きになっちゃったとか、
そんなわけないよね!?
結城 春
結城 春
他の女の子が目に入らないくらい、
本気だよ
泉沢 美月
泉沢 美月
なに、言って……
(面倒なんでしょ?
だから、特定の人を作ったりしないって
言ってたのに……)
結城 春
結城 春
彼女は、たったひとり、
好きな子にあげられる特別な関係
だって、教えてくれた人がいたから
(それって、私の言葉だ──)
結城 春
結城 春
そういうわけだから、ごめん
ファンのみんなに頭を下げたあと、
春は私の肩を抱いて、そのまま歩き出す。
結城 春
結城 春
美月ちゃん、余計なお世話かも
しれないんだけどさ
泉沢 美月
泉沢 美月
う、うん……
結城 春
結城 春
髪、短いのも似合ってたよ。
ロングもショートも、美月ちゃんが
可愛いことには変わりない
泉沢 美月
泉沢 美月
髪のことは忘れて
結城 春
結城 春
残念。俺はもっと見たかったのに
泉沢 美月
泉沢 美月
私は見たくないし、見られたくもない
あの髪を見ると、嫌でも意識する。

余命のことを──。
結城 春
結城 春
……なにがあったかは知らないけど、
あの髪に辛い思い出があるなら、
俺が少しずつ塗り替えたい
泉沢 美月
泉沢 美月
塗り替える?
結城 春
結城 春
そう、俺が可愛いって何度も囁い
て、その髪型を美月ちゃんが好きに
なる。良い作戦だと思わない?
泉沢 美月
泉沢 美月
かっ──!?
春って、なんでそんなに直球なの?
(ほんと、嫌になる)

私は両手で頬を押さえる。

(ほだされてしまいそうになるから、
怖い……)

***

偽装カップルになってから、
あっという間に1ヶ月が経った。
結城 春
結城 春
美月ちゃん、映画行こっか
泉沢 美月
泉沢 美月
あ、うん
──放課後。

当然のように私の席に来る
春に返事をする。

(私は、このままでいいの?)

春が隣にいることが、
最近は当たり前になっている。

しかも、居心地がいいとさえ
思っている自分がいて……。

(春といると、自分が病気だって
ことを忘れられる。
それ以上に楽しいって気持ちが勝るんだ)

だから、春からの誘いを断れない。
結城 春
結城 春
絶対泣けるって、
定評あるらしいよ
泉沢 美月
泉沢 美月
そうなんだ
結城 春
結城 春
安心して。
美月ちゃんが泣いたら、
俺が抱きしめてあげる