ふいに、目の前に立ちふさがった男。
彼は水色のシャツと白のセーターを
重ね着し、上からベージュのコート
を羽織っている。
その下は、長い脚が強調される
ジーパン。
おしゃれにセットされた金髪。
どこか色気を漂わせた笑みを浮かべる彼は、
すれ違う人が思わず振り返るほどのイケメンだ。
そうは言ったものの、
私は彼を知っている。
高校の同級生だ。しかも同じクラス。
同級生だけでなく、
先輩から後輩にまでモテている。
超がつく女好きらしい。
(学校の人に知られるのは
面倒だな)
学校で私の病気のことを知ってるのは、
先生だけだ。
私が知られたくなかったから、
伏せてもらっていた。
最近は再発したせいで体調が悪く、
学校は休みがちだったから、
学年が変わったばかりということもあり、
幸いにも向こうは私を覚えてない。
(しらばっくれよう)
そう決めてその横を通り過ぎようとすると、
腕を掴まれる。
(自信満々に言うことじゃないから、それ)
私の顔をまじまじと見て、
結城くんは軽く目を見張る。
私は結城くんの腕を振り払い、
病院の出口に向かって駆け出す。
(今日は本当に、最悪な日だ)
***
次の日、学校にやってくると、
席に着くや否や……。
(──げっ、出た! 結城 春!)
(よく喋る人だな)
私は鞄から取り出した本に視線を落とす。
ずいぶんと軽い『大丈夫?』だった。
上っ面の笑みを浮かべたままの彼を、
私は冷ややかに見上げる。
それだけ言って、
彼をシャットアウトする。
すると、絶句している結城くんの
周りに女の子が集まった。
(そうそう、早く立ち去って)
(騒がしいのは嫌いじゃない。
死の足音が少しだけ掻き消える気がするから)
(だけど、友達はいらない)
(残り少ない命で、
これ以上大切な人を作れば……)
頭によぎる、
お父さんとお母さんの泣き顔。
(お別れが悲しいだけだから)
***
【春side】
美月ちゃんに冷たくあしらわれた俺は、
謎の動悸に苛まれながら廊下側の
中間にある席に腰を落とす。
目の前に座っていた宮田 誠(みやた まこと)が
俺を振り返ってそう言った。
こいつは小学校からの親友だ。
(演技って、誠のやつ……)
誠は真面目で優等生のクラス委員長様だが、
さらっと毒を吐く。
なにか言いたげな視線を送ってくる誠から、
俺はすっと目を逸らす。
(手に入りにくいものほど、
燃えるってね)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!