(なんというか、春は私相手に
『可愛い』を乱用している気がする)
しかも──。
春は私に手を差し出してくる。
それを自然と取ってしまうくらい、
春と手を繋ぐのが日課になっていた。
***
駅前のショッピングモールにある
映画館にやってくると、
私は春と恋愛ものの映画を見る。
それも、病気の女の子が、
命がけで恋愛する話……。
(こんなの、こんなに綺麗な恋愛、
実際はできるわけない)
肘置きに乗せていた手をぎゅっと
握りしめる。
(好きな人と離れるってわかってて、
好きだと言うなんて無責任だ)
もう映画の内容が頭に入ってこない。
(私に告白する権利なんて……)
つい、隣にいる春を見てしまう。
(どうして私、今……春を?)
すると、私の視線に気づいた春が
目を見張る。
それからなにを思ったのか、
私の手に春が手を重ねてきた。
(あったかい……)
重なった手はゆっくりと、
指の一本一本を絡めるように固く繋がる。
そして、顔を近づけてきた春が小声で囁く。
(ここ、映画館なのに……)
軽く睨むも、春は笑ったままだった。
(ずるい……こんなふうに、
思いをぶつけられたら……)
頭の中に浮かんだ【好き】の2文字。
それに気づかないふりをして、
私はスクリーンに視線を移す。
でも、繋いだ手を解こうとは思えなかった。
***
映画館を出たあと、
私たちはショッピングモール前の
広場のベンチに腰かける。
頭上には夜空が広がっていた。
春は私に、可愛らしくラッピング
された小さな包みを渡す。
頷いて、言われたとおりに開けてみる。
そこには、月の飾りがついたヘアピンがあった。
春は私に手を伸ばしてきて、
さらりと前髪を撫でてくる。
(春と話してると、
病気になる前の自分に戻りたいなんて、
そう思ってたのが、どうでもよくなってくるな)
(だって……)
(どんな姿をしてても、
春は可愛いって言ってくれるから)
ヘアピンを握った手を胸に引き寄せる。
先に立ち上がった春が手を差し伸べてくる。
それを迷わず取って、
腰を上げたとき──。
ぐわんっと、目が回った。
私はそのまま、春の胸に飛び込む。
(身体に力が入らない。
なんで、急に……)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。