第16話

思いがけないプレゼント
7,313
2020/05/10 04:00
泉沢 美月
泉沢 美月
結構です
結城 春
結城 春
言うと思った。
つれない美月ちゃんも可愛いよ
(なんというか、春は私相手に
『可愛い』を乱用している気がする)

しかも──。
結城 春
結城 春
じゃあ、手
春は私に手を差し出してくる。

それを自然と取ってしまうくらい、
春と手を繋ぐのが日課になっていた。

***

駅前のショッピングモールにある
映画館にやってくると、
私は春と恋愛ものの映画を見る。

それも、病気の女の子が、
命がけで恋愛する話……。

(こんなの、こんなに綺麗な恋愛、
実際はできるわけない)

肘置きに乗せていた手をぎゅっと
握りしめる。

(好きな人と離れるってわかってて、
好きだと言うなんて無責任だ)

もう映画の内容が頭に入ってこない。

(私に告白する権利なんて……)

つい、隣にいる春を見てしまう。

(どうして私、今……春を?)
結城 春
結城 春
……?
すると、私の視線に気づいた春が
目を見張る。

それからなにを思ったのか、
私の手に春が手を重ねてきた。

(あったかい……)

重なった手はゆっくりと、
指の一本一本を絡めるように固く繋がる。

そして、顔を近づけてきた春が小声で囁く。
結城 春
結城 春
好きだ
泉沢 美月
泉沢 美月
あっ……

(ここ、映画館なのに……)

軽く睨むも、春は笑ったままだった。

(ずるい……こんなふうに、
思いをぶつけられたら……)

頭の中に浮かんだ【好き】の2文字。

それに気づかないふりをして、
私はスクリーンに視線を移す。

でも、繋いだ手を解こうとは思えなかった。

***

映画館を出たあと、
私たちはショッピングモール前の
広場のベンチに腰かける。

頭上には夜空が広がっていた。
結城 春
結城 春
そうだ、はいこれ
春は私に、可愛らしくラッピング
された小さな包みを渡す。
泉沢 美月
泉沢 美月
なに、これ?
結城 春
結城 春
開けてみてよ
頷いて、言われたとおりに開けてみる。

そこには、月の飾りがついたヘアピンがあった。
結城 春
結城 春
これなら、短くてもつけられる
でしょ?
泉沢 美月
泉沢 美月
……そのことは触れないでって、
言ったのに
結城 春
結城 春
ごめん。でも、俺にありのままの
姿を見せてくれる気になったら……
春は私に手を伸ばしてきて、
さらりと前髪を撫でてくる。
結城 春
結城 春
それつけてるとこ見せて
泉沢 美月
泉沢 美月
……わかった。
気が向いたらね
(春と話してると、
病気になる前の自分に戻りたいなんて、
そう思ってたのが、どうでもよくなってくるな)
結城 春
結城 春
飾りに月を選んだのは、
美月ちゃんの名前に月が入ってる
からだよ
(だって……)
結城 春
結城 春
早く見たいな。
絶対、可愛いに決まってる
(どんな姿をしてても、
春は可愛いって言ってくれるから)

ヘアピンを握った手を胸に引き寄せる。
結城 春
結城 春
じゃ、そろそろ帰ろうか
先に立ち上がった春が手を差し伸べてくる。

それを迷わず取って、
腰を上げたとき──。
泉沢 美月
泉沢 美月
えっ
ぐわんっと、目が回った。

私はそのまま、春の胸に飛び込む。
結城 春
結城 春
なーに、美月ちゃん。
俺に甘えてくれる気になった?
泉沢 美月
泉沢 美月
…………
(身体に力が入らない。
なんで、急に……)
結城 春
結城 春
美月ちゃん?

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