ガラガラッと目の前の扉が開き、
春が私を抱きしめる。
そのまま、ふたりで病室の床に座り込んだ。
私は春の腕の中で、
ぽつりぽつりと自分の病気のことを話した。
全て話し終えると──。
春は泣いていた。
私を抱きしめたまま、
「嘘だろ」を繰り返して。
春は私の手を握り、真剣な顔で懇願してくる。
『恩を売って、私という存在を
春に刻むため』
なんで彼女役を引き受けたのかって
春に聞かれたときに、
私が返した答えと同じ……。
私は春の瞳を真っ直ぐに見つめる。
そう言った途端、
荒々しく春に唇を奪われた。
(大好き)
そう思ったら気持ちは抑えられなくなって、
私は心に決める。
(私の残りの時間は、
春を幸せにするために使おう。
それがきっと、私の生きる意味だから──)
***
春と心が通じ合った日から、
あっという間に数カ月。
私は迎えられないだろうと
言われていた冬を迎えることができた。
私は朦朧とする意識の中、
大好きな彼の声で目を覚ます。
先生の言った通り、
私の腫瘍は大きくなり、
背中とお腹の痛みは我慢できないほど強くなった。
そのため、強い痛み止めを使うことに
なったのだけれど、
作用が強すぎて眠ってしまうことが増えていた。
(でも、不思議と……。
春の声が聞こえると、
意識がはっきりするんだよね)
(部屋の中?)
私は身体が怠くて動かせなかったので、
春に支えられながら部屋を見回す。
すると、壁にはキラキラと光る電飾、
クリスマスツリーも飾られている。
(そういえば……)
『イルミネーション見に行ったり、
ケーキ食べたり、クリスマスらしい
ことできたらいいな』
胸がじんとして、
私の目から、ぽろっと涙がこぼれる。
(もっと、春といたい。
どうして、そんな平凡な願いが、
叶わないんだろう)
私が悲しみに引きずられそうなとき、
春はいつも抱きしめてくれる。
そう言って春が箱から取り出したケーキは、
すごく不格好で……。
春はそう言って、私に口づける。
春はフォークを握ると、
私の口にケーキを入れる。
舌の上でふわっと甘みが広がり、
私は笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。