第17話

開かない心の扉
冗談を口にしていた春が、
慌てたように私の顔を覗き込む。
結城 春
結城 春
美月ちゃん!
最後に聞こえたのは、
春の今まで聞いたことがないくらい
切羽詰まった声だった。

***

目が覚めると、私は病院の個室のベッドにいた。
お母さん
お母さん
美月! ああ、よかった!
お母さんが泣きながら、
私の顔を覗き込んでいる。

(あれ、私……どうしたんだっけ?)
お父さん
お父さん
春くんと一緒にいるときに、
倒れたんだ。覚えてるか?
泉沢 美月
泉沢 美月
あ……そうだ、春は……
お父さん
お父さん
遅いから、今日は帰ってもらった
泉沢 美月
泉沢 美月
病気のこと……。
春に、知られ……た?
お父さん
お父さん
病気のことは話してない。
安心しなさい

(よかった)

ほっとして、身体の力が抜ける。
病院の先生
病院の先生
失礼します。
美月ちゃん、起きたようだね
泉沢 美月
泉沢 美月
先生……
(あ、ここって先生の病院だったんだ)

ずっと私の治療をしてくれていた先生の顔を見て、
自分がいる場所を理解する。
病院の先生
病院の先生
救急車でここに運ばれてきたんだ。
ずっと、食欲がなかったでしょう?
体力が落ちてたみたいだね
(ずっと、お腹がいっぱいな感じがして、
ご飯食べれてなかったんだよね)
病院の先生
病院の先生
腫瘍が大きくなって、
お腹を圧迫してるんだ。
それと……
先生が一瞬黙り込み、
やがて静かに口を開く
病院の先生
病院の先生
病気が腸にも悪さをしているから、
食事をしても十分に栄養がとれなく
なってる
(また、進行……)

治療をしていた頃、
いったんは寛解した症状も──。

治療をやめた途端、
ここぞとばかりに私を苦しめる。
病院の先生
病院の先生
腫瘍の大きさからするに、
お腹と背中の痛みも強くなってくる
お母さん
お母さん
先生、余命は1年あるんですよね?
こんなに早く進行するものなんですか!?
病院の先生
病院の先生
美月ちゃんの病気は想像以上に
進行速度が早い。冬を迎えるどころか、
夏を越えるのも難しいかもしれません
泉沢 美月
泉沢 美月
変なの……ちょっと前まで、
普通に過ごせてたのに。
みんなと同じ、女子高生に戻れた
気がしてたのにな
病院の先生
病院の先生
美月ちゃん……。
数日は入院をして、
様子を見たほうがいい。
そのあとのことは、
体調がよくなってから考えよう
(先生も変なの。
体調がよくなることなんて、
ないのに──)

***

それから1週間。

私は入院することになり、
学校に行けない日々を過ごしていた。
お母さん
お母さん
美月、今日も春くん来てるわよ
泉沢 美月
泉沢 美月
体調が悪いって、
追い返して
そして、この1週間。

春がお見舞いに来てくれているのだけれど、
私は断り続けている。

(あんな風に倒れて、
1週間も入院して……。
なんて説明すればいいの?)

もう体調が悪いどころの話ではないことは、
誰だって気づくはず。
お母さん
お母さん
わかったわ
そう言って部屋を出ていくお母さんを見送って、
私はベッドに深く沈む。

それからしばらくして、
病室の扉がノックされた。
???
???
美月ちゃん