第11話

甘酸っぱい空気
【春side】

(つーかさっきも、俺にとって美月
ちゃんが大切な存在になったら困る、
みたいなこと言ってなかったか?)
結城 春
結城 春
よくわかんねえけど
(胸が痛いんですが)
結城 春
結城 春
それにしても、俺……。
焦ってたからって、あれはないよな
美月ちゃんから別れると言われて、
頭が真っ白になった俺は……。

とっさに告白をなかったことに
してしまった。

(やっぱ、女好きのチャラ男に
告白されるなんて、迷惑だからか?)

そのとき、誠の言葉が頭に蘇る。

『春がゲーム感覚で女の子と付き合ってた
つけが回ってきたんじゃない?』

(──ぐうの音も出ない)
結城 春
結城 春
くそっ、こんなの俺らしくないだろ
俺は頭を抱えて、
廊下に座り込む。

(今は様子を見て、
偽装彼氏を貫き通すか?)
結城 春
結城 春
それとも、ちゃんと伝えるべきか?
(誰か教えてくれ!)

***

【美月side】
泉沢 美月
泉沢 美月
うわっ、なにしてるの?
保健室を出ると、
廊下で頭を抱えた春に遭遇した。
結城 春
結城 春
なんでもない。
教室戻ろーか
何事もなかったようにすくっと立ち上がった春は、
私の手を引いて歩き出す。

(手……自然に繋いできたりして……。
女の子慣れしてるよね、春って)

そう思っていると、春の手に
ぎゅっと力が込もる。
泉沢 美月
泉沢 美月
春? どうかした?
結城 春
結城 春
んー? なにが?
泉沢 美月
泉沢 美月
手、力が入ってる
ちょっと痛いくらいだ。
結城 春
結城 春
あ、ごめん
焦ったように力を緩めるも、
春は手を離さない。

心なしか、春の耳が赤い気がした。

そのまま特に会話もなく教室にやってくると、
昼休み終了の鐘が鳴る。

春と別れて席に座ったとき、
ヒソヒソと声が聞こえてきた。
クラスの女の子1
クラスの女の子1
泉沢さん、
トイレで水かけられたらしいよ
クラスの男の子1
クラスの男の子1
結城と付き合ってるからだろ。
あいつ女子に人気あるし、
嫉妬って怖ぇな
クラスの女の子1
クラスの女の子1
かわいそー、
だからジャージなんだ
クラスの女の子2
クラスの女の子2
でもさー、結城くんモテるし、
釣り合わないのに付き合ったりする
からイジメられるんじゃないの?
(偽装彼女をするときから覚悟はしてたけど、
うっとうしいな)

それでも聞こえないふりをしていると──。
結城 春
結城 春
ねえねえ、照れちゃうから
俺の話はやめてよ
春の声が聞こえて振り向くと、
茶目っ気たっぷりにウィンクをしているのが見えた。

たぶん、噂していた女の子たちに向けて。
結城 春
結城 春
そ-いうのは、
俺とふたりきりのときに、ね?
春にそう言われた女の子は、
赤面して俯く。

(もしかして……。
噂話してるあの子たちの気を引いてくれた?)

春を見ると、目が合う。

その瞬間、ふいっと視線を逸らされた。

(なにあれ……)

春の反応に、なぜかモヤモヤする。

おかげさまで、
授業にも集中できなかった。

***

──放課後。

私は更衣室で、
なんとか乾いた制服に着替えると
自分の席に戻ってくる。

帰り支度をしていたら、
私の机にドンッと春が鞄を置いた。

それにぎょっとしていると、
春がじっと見つめてくる。

(な、なに?)
結城 春
結城 春
帰ろ
(目を逸らされたり、
一緒に帰ろうって誘われたり……。
春がなにを考えてるのか、わからない)

だけど、私は偽装彼女を引き受けた。

(その責任は果たさなきゃ)

どこか自分に言い聞かせるように、頷く。

こうして、一緒に帰ることになったのだが……。
結城 春
結城 春
今日、うちに来ない?