第12話

春の家にふたりきり!?
泉沢 美月
泉沢 美月
え、それは無理
結城 春
結城 春
俺がなんかすると思ってる?
今度はしない、約束する
泉沢 美月
泉沢 美月
やだよ、信用ならない
結城 春
結城 春
花の高校生が真面目に直帰とか、
寂しいでしょ
春は問答無用で私の手を握り、
半ば引きずるように駅の方へ歩き出す。
泉沢 美月
泉沢 美月
もう!
(振り払えないこの性格が憎い)
結城 春
結城 春
ありがとう。
美月ちゃんって、押しに弱いよね
泉沢 美月
泉沢 美月
やっぱ帰──
結城 春
結城 春
逃がさないよ
春がすかさず握った手に力を込める。
泉沢 美月
泉沢 美月
誘拐反対!
結城 春
結城 春
なんとでも言って
私の言葉を華麗にスルーした春に
連れてこられたのは……。
結城 春
結城 春
ここ、俺ん家。
親いないから、くつろいでって
学校の最寄り駅から電車に乗って、ひと駅。

駅から徒歩で5分圏内の普通の1軒家だった。
泉沢 美月
泉沢 美月
ちょっと待って。
今、親いないって言った?
結城 春
結城 春
あ、また俺のこと犯罪者扱いしてる?
なにもしないって言ったでしょ
(だから信用できないんだってば)

図書室で無理やりキスされたときの
ことを思い出す。

春に促されて家に上がると、
2階にある部屋に案内された。
結城 春
結城 春
ここ、俺の部屋。
なにか飲み物持ってくるから、
好きなところ座ってて
それだけ言って、部屋を出ていく春。

その場に取り残された私は、
部屋の中を見回す。

(男の子の部屋って、
ちょっと緊張するな……あれ?)
泉沢 美月
泉沢 美月
化粧道具?
男の子の部屋には不釣り合いな
それに目を奪われていると──。
結城 春
結城 春
俺の秘密、知っちゃったね
耳元で囁かれ、
私は肩をびくつかせる。

後ずさりながら後ろを振り返れば、
春がコーラの入ったコップを渡してきた。

私はコップを受け取りながら尋ねる。
泉沢 美月
泉沢 美月
女装趣味がおありで?
結城 春
結城 春
ぶっ、違うよ。
俺、美容師になんのが夢なの
春がベッドに座り、
隣に来るようにマットレスを叩く。

さすがにそこは気が引けたので、
私は絨毯の上に腰を下ろした。
結城 春
結城 春
単純に母親が美容師だからって
いうのもあるんだけど
そこまで言って、春は恥ずかしそうに
前髪を掻き上げる。
結城 春
結城 春
俺のセットした髪とか、メイクでさ、
男も女も関係なく輝いてくれたら
本望っていうか
泉沢 美月
泉沢 美月
ちゃんと考えてるんだ。
将来のこと
結城 春
結城 春
……って、俺なんでこんなこと
美月ちゃんに話してんだ?
つまんないよね、俺の夢の話なんて
泉沢 美月
泉沢 美月
つまんなくない。
希望がある話は好き
(最近は終わりを意識しちゃう
ことばかりだったから、
余計にそう思うのかも)
結城 春
結城 春
すっ──そ、そう
一瞬、言葉を詰まらせた春。

でもすぐに、いつものポーカーフェイスに戻る。
結城 春
結城 春
美月ちゃんはないの?
これからしたいこと
泉沢 美月
泉沢 美月
うーん……
(私に残された時間を思えば、
せいぜい……)
泉沢 美月
泉沢 美月
今年の冬
結城 春
結城 春
ん?
泉沢 美月
泉沢 美月
イルミネーション見に行ったり、
ケーキ食べたり、クリスマスらしい
ことできたらいいな
(最後のクリスマス、そこまで
この身体がもつといいんだけど……)
結城 春
結城 春
それがしたいこと?
泉沢 美月
泉沢 美月
うん、これが妥当かな、と
結城 春
結城 春
すぐ叶うじゃん。あと数カ月で。
俺が言ってんのは、
もっと大きな目標っていうか──
泉沢 美月
泉沢 美月
十分、大きな目標だよ
(私にとってはね)