何も考えずに帰るのとは反対の電車に乗って、しげのいる病院まで来たけど。
病院に着いた途端、怖くなった。
会うのが怖い。
鼓動が早くなる。
やっぱり帰ろうか。
もうしげの病室まで教えてもらって、エレベーターにまで乗ってるのに、まだそんなことを思ってしまう。
話って、なんやろう。
もう二度と会いたくない。
照史君のことは一生許さへん。
照史君の耳が聞こえへんのは自業自得や。
そんなふうに言われるのかな。
でも、そう言われたら言われたで、蹴りがつけられるかもしれない。
そんなこと考えてたらエレベーターのドアが開いて、僕はゆっくり廊下をすすんだ。
しげの病室に近づけば近づくほど、足取りは重くて、リュックを握る力も強くなった。
病室の少し手前で、僕は耐えきれなくなって近くにあった椅子に座り込んだ。
蹴りがつけられるとか、
これで終われるとか、
そんな簡単に考えられるほど、僕らの関係は弱いものじゃなかった。
これで終わってしまったら、
もうみんなと二度と会えなくなってしまったら、
僕はきっと、一生後悔する。
何を言われたって、
ちゃんと謝ろう。
そう思って歩き出せたのは、かなり経ってからだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。