あの後、落ち着いて話してたら耳の話になって。
そしたらしげ、先生呼んでしもて。
先生の腕を握ってしげが聞くと、先生は僕を見て真剣な顔になった。
「俺はええんやけど」って声も届かず、言われるがままに診察室に行く。
でも、診察室まで行くと、しげは「僕は外で待ってる」と中には入らなかった。
診察の後、先生はそう言って苦笑した。
かかりつけの病院さぼってたこと言うと、そう言われてただ頭を下げた。
耳が聞こえへんくなって、どこかしょうがないって思ってた。
自業自得やなんて、そう思ってたのは自分自身。
きっと、内心みんな嬉しかったんちゃうかな。
・・・しげやって。
そんな声がしてびっくりして顔を上げると、しげが診察室のドアから顔をのぞかせてた。
先生が頷くと、しげはたたーっと走ってきて僕の隣に座った。
しげが先生に尋ねると、先生は困ったように笑った。
しげ、どんな顔してるんやろう。
自業自得やって、思ってるんかな。
ふいに先生の心配そうな声がしてしげの方を見たら、しげはパッと表情を明るくした。
しげはぎこちなく笑って僕の肩をたたいた。
不思議に思いながらも、診察も終わって部屋を後にしようとすると、先生に僕だけ引き止められた。
「俺に内緒で二人で何の話するんや!」って怒るしげがちゃんと病室へ向かうのを見届けた後、先生は僕の方を見た。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!