昼休憩が終わってレッスンがまた始まろうとしていた。
午前中のレッスンでは望のことが気になってまともに振りが入らず、何度も怒られてしまった。
それは淳太君も同じだったらしく、珍しく振り付けの先生に怒られて凹んでた。
とにかく、レッスンを絶対休まへんかった望が、無断で休むなんて訳が分からない。
レッスンが再開するまで座って考え込んでたら、両隣に誰かが座った。
左に淳太君、右に流星。
二人とも話すわけでもなく、ただ座ってぼんやりしてる。
なんやねん、これ。
つっこもうとした瞬間、視界が誰かの手でふさがれて真っ暗になった。
僕の驚いた声と、淳太君の声が重なって。
くすくすとこらえながら笑う微かな声が、望の声だと分かって聞くと、返事が帰ってこない。
右隣から聞こえた、流星の震えるような声に、僕は思わず目をふさぐ手を握った。
そしたらパッと手がのいて、
明るくそう言った声の方を振り向くと、
会うん、いつ振りやろう、しげがおった。
しげは僕と目が合うと、気まずそうに笑った。
胸の奥がぎゅっと痛くなって、涙が溢れそうで、しげを抱きしめた。
ありったけの思いをぶつけると、しげは細い腕で僕の腕をぎゅっと握った。
久しぶりに呼ばれる名前が、前の呼び方で、僕らの間に出来た距離を物語ってる。
そう言って頭を撫でると、しげは頷きながら肩を震わせて泣いた。
そんなしげの背中を、流星が優しくさする。
メール返してや。電話くらいしてや。
そんなこと言える権利は僕にはない。
しげ、
頼りない兄ちゃんでごめんな?
その後、泣きながらお互いの背中さすってたら、
振り向くと、淳太君はいまだに望に目隠しされたまま。
そんな光景に全員が笑った。
手をパッと離した望は、そんな淳太君にえへへと笑って、
僕の腕を握ったままのしげも、
目が潤んでた流星も、
仲間はずれで怒ってた淳太君も、
俺も、
みんな笑ってた。
そんな僕らを、嬉しそうに望が見た。
全員が頷く。
うん、
今度は、
ちゃんと7人で笑えますように。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。