しげに会いに行った次の日、また顔出しに病院行こうかなって思ったけど、マイナスな考えばっかり浮かんで結局行けなかった。
1週間ほど経った頃、しげのほうからメールが来た。
ー今日退院やねん!遅れた分レッスン頑張るぞぉぉ!
って。
しげの文章を読むと、やっぱり自分の感情に負けずに会いに行っとけばよかった、なんて後悔する。
やから、今日はメール読んですぐに病院に向かった。
こんな僕でも荷物運んだりとか手伝えることはあるやろうし、少しは力になれるかもしれへん。
そう考えながら病院の廊下を歩いてたら、しげの病室の前に、見慣れた人。
しげの肩に手をおいて心配そうにする人は、淳太君だった。
思わず反対方向へ帰ろうとしたその時、
しげが僕に気付いてしまった。
恐る恐る振り向くと、淳太君と目が合ってしまって、めっちゃ気まずい。
しげは淳太君の腕を引っ張りながら僕の方へ走ると、にこっと笑った。
そう言うと、しげは後ろで気まずそうにしてる淳太君の背中を「ほら!」と押した。
目の前に淳太君。
あかん、どうしたらええん?
目も合わせられない。
でも、
ちゃんと謝らな!
って頭を下げようとした時、
ーゴチンッ
目の前の淳太君と頭が思いっきりぶつかった。
てか、誰かに勢いよく頭下げさせられた!
絶対に頭を下げさせたであろう犯人の顔をばっとみると、
なんて笑ってる。
強すぎたなんてもんちゃうわ。
そんなしげに苦笑いしながら頭痛くてさすってたら、
しげに無理やり淳太君と握手させられて、僕と淳太君両方の顔を覗き込んでは「はよ~」と急かす。
きっと、いつもなら「黙れ!」なんて言いそうな淳太君が、今日は違ってた。
無理やり握手させられた僕の手を強く握ってそう言われて、「え・・?」と顔を上げる。
違うやん。
淳太君が謝るんとちゃうやん。
そう言い終える前に、握手したまま、今度はちゃんと自分で頭を下げた。
自然とあふれる涙。
でも、そんな僕に、「もうええから」って淳太君の優しい声。
あの日以来、誰より信頼してた淳太君でさえ、本当の気持ちは話せなかった。
淳太君はきっと、俺のこと嫌いになったやろうなって、近づけなかった。
でも、やっぱり淳太君は淳太君。
優しい、僕の相方。
強く握手した僕らを見て、そう言ったしげが、僕らと手を繋いで妙な動きをしだして、淳太君と顔を合わせて笑った。
淳太君が呆れながらも笑ってて、僕も泣いてるままやけど笑ってた。
そんな僕らの真ん中で笑うしげは、子どもみたいに無邪気な笑顔で。
仲直り、してほしかったんやなって、すごく嬉しくて。
それにしても、
しげは、仲直りの天才かもしれへんな
なんて笑いながら思った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。