校庭の端を猛スピードで駆けていく人影を、野田君は一心不乱に一直線に追走する。
先生たちの制止の声も完全に無視して、隣で試合中だったサッカーコートに乱入し、目を白黒させる選手の一人からボールを奪うと、野田君は思いっきりそれを蹴り飛ばした。
うなりを上げたサッカーボールはマスク男のお尻に衝突。
マスク男は激しく吹っ飛ばされて気絶する……なんて『名探偵コナン』みたいなことにはならず、一瞬驚いて足を止めたものの、大したダメージは受けずにまた走り出した。
ですよねー。
野田君もひるまず追跡を続行する。マスク男への最短距離を猪突猛進。
進行方向にいた先生の背中を馬飛びして、置かれていたカラーコーンをなぎ倒す。
ライン引きを蹴り飛ばして、校庭に白い粉が舞い上がる……。
啞然と眺めていた私は、高嶋君に肩を叩かれて、我に返った。
すぐに意図を理解し、走り出した高嶋君の後を追う。
関わり合いたくないと思っているのに、ついていくのには理由があった。
……まさかとは思うけど……。
☆★☆
マスク男は校門とは反対方向に逃げていた。ということは、校舎裏に回り込んで裏門へとでるつもりだろう……。
そう予想して、校舎を反対側から回り込んでしばらく行ったところで、案の定、向こうから走ってくる人影とかち合った。
ハッと息をのみ、足を止めるマスク男……いや、この人は──
袋小路に追い詰められたマスク男の向こう側から、勢いよく人差し指を突き出した野田君が、朗々と声を響かせた。
そこで野田君は足を開いて、両腕を大きく回した。
腰を落として握りしめた右手を腹部に添え、摑みかかるように開いた左手を前へ伸ばして、ビシィッと決めポーズ。
特撮ものなら背景でバーンと謎の爆発が起こりそうなテンションだ。
それにしても動きにキレがありすぎる……人知れず練習していたのかと思うと、なんというか、こみ上げてくるものがあった。
これも決め台詞の一つなのだろうか。勇ましいファイティングポーズを決めてから、マスク男に飛びかかる──
響き渡った私の声に、野田君ははたと動きを止め、こちらに驚いたような眼差しを向けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。