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球技大会はクライマックスを迎えていた。
野田君の活躍で、我が1‐Cのバスケチームはまさかの決勝進出。
一年生にしてこの進撃はなかなかの快挙らしく、対戦相手の三年生だけでなく、いろんなクラスの生徒が試合の見物に来ていた。
先輩らしき男子生徒たちの話し声が耳に入り、菜々子ちゃんもそんなこと言ってたな、と思い出す。
ほんと勿体ないな、野田君。本気でスポーツやればそうとうな成績を残せそうなのに。
──とはいえ、相手の三年生チームには現役バスケ部員が三人も揃っており、開始早々で立て続けに点を取られてしまった。
やっぱり厳しいか……という空気が漂った時。
野田君の大声が、コートに響き渡る。
……いや、厳しい練習って、せいぜい体育の授業で数回やったくらいでしょ。
バスケの試合だよね、これ……?
気合いとともに吠えた野田君は、呆気にとられていた三年生から素早い身のこなしでボールを奪った。
我に返って行く手をふさぐ選手たちを、軽快なステップと巧みなフェイクを織り交ぜた電光石火のドリブルで次々と突破して、見事なレイアップシュートを決める。
わあっと沸き起こる大歓声。
勢いに乗った1‐Cは、そこから連続してゴールを奪い、とうとう敵にあと一点のところまで追いついた。
ほー、すごい。これは優勝も夢じゃない?
応援の熱気も最高潮に高まる中、野田君はダムダムとドリブルをして、機をうかがっている。
さすがに敵も警戒を強め、三人がかりでマークされているので、自ら攻め込むのは厳しそうだ。それどころか、パスさえも難しそう……。
息をのんで見守る観衆の前で、周囲の様子を探っていた野田君が不意に一声叫び、ボールを大きくぶん投げた。
やはりパスか──!? と思いきや、バスケットボールはコート外の茂みに突っ込み、同時に、「あでっ」という鈍い悲鳴が上がった。
その場にいる全員が呆気にとられる中、黒い影が茂みの裏から飛び出し、逃走していく。
学校指定ジャージに身を包んでいるが、カメラを手にして、顔はマスクで隠された男性だ。
マスク男を追って、バスケットコートを飛び出す野田君……。
──もしかして、例の不審者!?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。