第9話

君じゃないなんて言いたくない
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2023/01/25 07:00
そんなこんなで始まった同居生活。

駿¦じゃあ行ってきます

謙¦行ってらっしゃいっ!気をつけてね!

駿¦謙杜も気ぃつけや?可愛いねんから。誰かに襲われそうになったら逃げるんやで?

謙¦襲われる、?なにそれ?

駿¦あー、また今度言う

謙¦??そっか、じゃあね!はよ行かな遅れるで!

僕がそう言うと彼はにっこりと笑って仕事に行った。

謙¦・・・はぁ、、

監視された生活って結構辛いな、、

いつまで猫被ってたらええんやろか

いつまで仮面夫婦?

ていうかそもそも期限ってあるん?

まあ、ええか。そのうち分かるやろ!

とりあえず駿佑様が仕事から帰ってくるまでの数時間は自由の身!

夕食の準備をする為に必要なものをメモして買い出しに出かけた。

スーパーに寄った帰り

買い物袋を手に提げてゆっくり歩いていると、

誰かが僕の肩に手を置いて詰め寄ってきた

『あれー?西畑やん!』

『ほんまや!謙杜くんやー!元気にしてた?』

複数の男女が僕の周りを囲って質問攻めしてくる。

思い出した

この人達はついこの前まで同じ高校だったクラスメイト

とにかく悪党で色んな人を連れ出して体を犯していたって聞いた事がある

それがどんな事なのかをよく知らなかったから

曖昧な相槌しか出来ひんかった

この時までは。

僕は家の事情という名目であの家に入る数日前に学校を中退したから、実質もうクラスメイトではないけど。

『謙杜くん、なんで学校辞めちゃったん?』

『そうそう!俺ら謙杜くんとやりたい事あったのに、、』

謙¦な、なに?

『そんな怖がらんといてー?謙杜くんがめっちゃ気持ち良くなる事やから。とりあえずあっち行こっか。』

スーパーの袋を持っていた手を強い力で引っ張られて抵抗出来なくなってしまった僕は大人しくついて行くことにした。

謙¦ここどこ、?

『まあそんなんええやん。それよりはよ遊ぼな?』

謙¦遊ぶ、?僕そろそろ帰らなあかんのやけど

この人達の''遊ぶ''がどんな事を表すのかなんて

この瞬間の僕には全く分からへんかったけど

数分後、それが何かを知らされる

『そんな時間かからんから大丈夫』

そう言って一人の男は僕の唇に自分の唇を重ねてきた。

あれ?なんでやろ

吐き気がする。

この前駿佑様にされた時は何にも感じなかったのに

背筋が凍るような寒気

胃が逆流するような感覚

こんなの、キスじゃない。

駿佑様のキスとは全く違う

気持ち悪い。

僕は必死に相手の唇を離そうとするけど

両腕を壁に押し付けられているから押し返せない。

目で必死に訴えたり睨んでみたりしたけど

『ふはっ、煽ってんの、?』

なんて意味の分からない事を言われて口の中に舌が入ってきた

謙¦!?んんっ、!

離せ、離せ、!

僕の願いとは裏腹に次々と僕に近付いて来る人達。

一人の女が僕のシャツのボタンを上から順に外していく

何これ、どうなってるん、?

とりあえずここから離れないと

でも離れられない

『そんな必死にならんくてもこんな所には誰もこーへんよ?やから助けなんて求めても無駄。分かった?』

僕の心を見透かしたかのように言葉を吐く男。

あぁもうだめなのかな、、

駿佑様に会いたいな、、

こんな時王子様が助けに来てくれるなんていうのは

どこかの夢物語か何かで

これが現実なんだろうな。

『謙杜くん、いい体してるやーん♡』

知らない間に上半身が脱がされていた

どういう事?

謙¦!?・・・やっ、、グスッ

もうどうにもならないという絶望感からなのか

頬を一筋の涙が溢れる

『泣き顔も唆るわー、笑』

男の手が僕の体に触れる

寒さなのか怖いからなのかずっと震えているのに

触れられる事でもっと怖くなって

現実から目を逸らすためにぎゅっと目を瞑った。

助けて誰か、!お願い、!

?¦こんな暗い所で弱い者いじめ?変わったお趣味ね

暗くてよく見えないけど、どこかで聞いた事のある声が聞こえた。

もしかして、、

『誰やねんお前』

?¦あー俺?君達が沢山可愛がってくれたその子の義兄やけど

あれ、?

謙¦恭平、くん、?

恭¦よっ!新婚生活早々こんな奴らに襲われて謙杜くんも大変やなぁ、、

え、?

もしかしてこれが襲われるってこと、?

帰ったら駿佑様に聞こう

いやでもこの状態だと帰れへんくない?

『こんな奴ら?』

『口の利き方気をつけろよ』

恭¦おいおいおい。人の事虐めといてどの口が言ってるのかなー?

『は?虐め?楽しませてるんやけど』

恭¦震えてるのに楽しいん?まあ自分の欲求満たす為の道具としか考えてへんお前らにはいきなり襲われた相手の気持ちとか分からんかー

『お前、死にたいんか?』

恭¦そっちこそ大丈夫?さっき警察呼んだからもうすぐ来ると思うけど

恭平くんがそう言うとさっきまで僕の周りを囲っていた集団が嘘みたいにいなくなってどこかへ逃げていってしまった

恭¦大丈夫やったか?怪我はない?

謙¦あ、、大丈夫、です

恭¦もー気ぃつけや?謙杜くん可愛いねんから!

なんか朝も駿佑様に同じ事言われたような、、

謙¦あの、

恭¦ん、?

謙¦ありがとうございました。助けてくださって

恭¦あぁ大丈夫大丈夫。

謙¦でもなんでここが、?

恭¦あー、いや、それはまあ、、たまたま通った時に騒がしかったから、?

なんだか慌てた様子なのが引っかかったが

気のせいだろうと思って詮索するのは辞めた。

謙¦そうですか。ところで駿くんは?

恭¦まだ仕事してるってさ。

謙¦そっ、か、、

恭¦ふふっ笑 期待した?

謙¦期待、?

恭¦駿佑くんが助けに来てくれたらって

謙¦・・・それは、、

''ありえない''

そう言いたいのに

何故か声にならない。

いや、言葉にしたくないのかもしれない。

助けに来てくれたのは嬉しかったし安心した

それなのに

心が晴れないのは何故なのだろうか

恭¦ごめんな?

謙¦え、?

恭¦お望みの人じゃなかったやろうから、笑

謙¦・・・そ、そんなことっ、///

恭¦そう?あ、駿佑くんから連絡来たわ、

謙¦!?

恭¦仕事切り上げたからもうすぐ会いに来るってさっ、

会いに来て、くれるんや、、

さっきまで怖くて震えていた体も

心の内側から熱が伝わって、

不安と恐怖を溶かしていく。

どれでも埋まらなかった心の穴が

すっぽり埋められたような気がした。

そっと恭平くんの方へ目をやると

にっこりと微笑んでこちらに向かってくる

すると、僕のはだけたシャツを直してくれた。

謙¦あの、これって、、襲われるって言うんですか?

恭¦え?もしかしてこういう事されたの初めて?

謙¦こういう事、?

恭¦・・・んふ笑 謙杜くんは愛されてるんやね、笑

謙¦愛される?

恭¦そのうち分かるよ、笑

謙¦そういうものなんですか?

恭¦まあ人それぞれやけどね?でももし俺が言った事を分かる日が来るとしたら、教えてくれるのは多分、謙杜くんが襲われてる時頭の中に思い浮かべた人だけやと思うよ?

謙¦・・・どうして、ですか?

恭¦んー?なんとなく。あ、そういえば知ってた?

謙¦何をですか?

恭¦人って恐怖や不安でいっぱいになると、人生で一番大切な人を思い浮かべる傾向があるねんて!

ロマンチックな話やと思わへん?と言って不敵な笑みをこちらに向けてくる

つまり恭平くんの話によると

襲われている時に思い浮かべた人は

人生で一番大切な人

あの時僕の頭の中にいたのは、、

いや、そんな事ないよ。


もし助けに来てくれたのが彼だったら、なんて

考えたくないのに

言いたくないのに

僕の心の中にある何かが言葉を邪魔して

素直に否定する事が出来なかった。

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