第10話

心の蓋には期限付き
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2023/09/22 06:39
駿佑side

仕事の休憩時間、急ぎのメールが入っていないかを確認する為に携帯を開く

ふと謙杜が何をしているのか気になって

位置情報アプリを開いた。

以前謙杜の携帯にインストールしていたやつ。

ちなみに本人に言ったら絶対嫌がるだろうからまだ言えてない。

流石に重いかなとも思ったけど

あの鈍感な謙杜にはそれくらいが丁度良いと自分に言い聞かせている。

画面から消えるようにしてるからアプリが入っていることはまだバレてないはず

安全確認という名目だけど、実際には単なる興味本位、なのかもしれない



謙杜は人通りの少ない路地裏にいた。

おかしい

今日は家事をして一日過ごすと話していたのに

訳もなく一人で路地裏に行くだろうか。

その瞬間、俺の中に考えたくもない仮説が思い浮かんだ

もしかして、、

誘拐された?

慌てて謙杜に電話をかけるが出ない。

しかも最悪な事にこれから取引先と会う約束をしているので助けに行く事は出来ない。

約束を切ってしまえば父から怒られて結婚どころか家も追い出されるだろう

俺は正直あんな家今すぐ出て行ってもいいくらいに嫌いだけど

今父に逆らえば謙杜との結婚は確実になくなる。

約束を守る必要があるけど、謙杜も助けなければいけない

そうなるともう手段は一つしか残っていなかった。

俺は急いで恭平くんに電話をかけた

恭¦はーい

駿¦もしもし恭平くん!?助けて!

恭¦駿佑くん、?どしたん?

駿¦謙杜が!襲われてるかもしれんねん!

恭¦え!?

駿¦今地図送るからっ

恭¦分かった、すぐ向かうな?

恭¦・・・駿佑くんはそれでもいい?

駿¦え、?

恭¦俺が謙杜くんを助けてもいいん?

駿¦・・・恭平くんやから。信じてるから。だから別にええねん。俺は謙杜が無事やったらそれでええから。

半ば言い聞かせやし、ほんまは信用ならんけど

なんて、口が裂けても恭平くんには言えへんわ

恭¦そっか、分かった。俺に任せて?駿佑くんの可愛い姫やもんなぁ?笑

電話越しにケラケラ笑う声が聞こえる。

なんでそんな余裕そうやねん

何だか恥ずかしくなって適当に相槌を打って電話を切った。

その後すぐに恭平くんに地図を送った

幸い丁度近くにいたらしく

無事、謙杜を助けたと連絡をもらった。

仕事が終わってすぐに謙杜を迎えに行った

駿¦謙杜!

謙¦しゅん、くん、?

謙杜は恭平くんの腕の中にすっぽりと収まった状態で俺を見た

駿¦そやで?遅なってごめんな?帰ろっか。おいで?

謙¦・・・///

勢いよく走ってきて俺の胸に飛び込んでくる

駿¦けんと、?

謙¦・・・さびしかった、

駿¦ふふ笑 ごめんなぁ?

謙¦僕、駿くんやないと嫌や、

駿¦え、?

謙¦その、き、きす、///

駿¦・・・は!?キスされたん!?

謙杜は目に涙を溜めながらゆっくりと頷く

駿¦誰や?恭平くんか!?

恭¦おーい巻き込むなー?キスしてきたのは 謙杜くんの元クラスメイトらしいで。あ、ちなみに俺は助けただけやから

駿¦怪しいな、、

恭¦なんでやねん笑

謙¦駿くん、恭平くんが言ってるのはほんまやで?恭平くんが助けてくれてん!

駿¦・・・へー、、

嬉しそうに笑みを浮かべる謙杜に、また胸が苦しくなる。

謙杜は助けてもらえるなら誰でもよかったんだろうな。

あの時俺が助けていたら

同じように笑って

同じようにありがとうって言ってくれた?

もやもやした気持ちが募ったまま謙杜と一緒に恭平くんの車で家へ帰った。

急ぎすぎて運転手を呼ぶ事さえ忘れていたから有難い。



車の中、後部座席に2人きり。

謙杜は俺に抱きついたまま離れようとしない

おまけにめっちゃ気持ちよさそうに寝てる。

かわいいな、笑

駿¦けんと?そろそろ着くから車降りる準備してな、?

謙¦んぅ、、しゅん、くん、

駿¦んー?

謙¦ねむい

駿¦家帰ったらゆっくりしよっか。俺ご飯作るし

謙¦作れるん?

駿¦流石に魚とかは無理やけど、謙杜の心は捌けるで?

謙¦へー、おもんな。

駿¦聞こえてるんよ。言うなら小声でお願いしますね

謙¦んー、、めんどくさい、

駿¦おっと?

謙¦素直に作れへんって言えばいいやん

駿¦それは男として良くないやん?

謙¦素直じゃない方が良くないわ

駿¦すみません

謙¦分かればよろしい。おやすみ

駿¦え、あ、うん。いやだからもうちょっとで、

謙¦・・・

駿¦え、寝た?早ない?

謙¦・・・

駿¦はぁ、、まあええか、笑

俺の膝の上でまた寝息を立て始めた彼を起こすことなく、ただそっと抱きしめる力を強めた。

駿¦恭平くん、今日はほんまにありがとう

恭¦あー全然ええよ俺も暇やし

駿¦でも一応社長やろ

恭¦一応ってなんやねん

恭平くんは一応大手企業の社長

元々御曹司で、後を継いだ形らしい

だから俺の姉ちゃんと政略結婚させられたんやろうな。

駿¦姉ちゃん元気?

恭¦相変わらず元気よ。姉弟揃って親父ギャグがお好きなようで良かったですわ。

駿¦そりゃあどうも。

姉ちゃんはあまり家に帰ってこない

帰りたくない訳ではなく、帰りたくても帰れないらしい。

実家に帰れるのは子どもを授かった時だけ。

それが向こうの家からの条件だった

姉ちゃんは反対してたけど、

父はひとつ返事で承諾してしまった。

でも恭平くんの家は少なくとも俺の家よりはマシらしい。

たまに送られてくる姉ちゃんからの手紙を読んだ限りやけど。


恭¦それよりええの?謙杜くん、駿佑くんの言葉完全に真に受けてるで?

駿¦んー?

恭¦''常に監視されてる無期限の夫婦生活''

駿¦・・・なんでそれを、?

恭¦んー?君の嫁さんが辛そうに言ってたから。

恭¦でもほんまは監視なんてされてないとか、?

駿¦・・・

恭¦なーんつって。まあ2人の事やから何も言えへんけどさ、好きになるのはしゃあない事なんやない?

駿¦・・・あの、もしかして、、

俺と謙杜が付き合ってない事

バレてる?

駿¦気付いてたん、?

恭¦そりゃあな。駿佑くんはよく嘘つくから最初はほんまに騙されたけど、あの子は分かりやすいから。

駿¦俺だけ悪口やん

恭¦それに駿佑くんが誰かを守ろうとしたのなんて初めてやろ?

駿¦まあそやけど。それは代わりを探すのがめんどくさいからやし

恭¦はいはい、相変わらず強がりさんやね、笑

恭¦でも謙杜くんもきっと苦しいと思うで。好きって気持ちに蓋をするのには勇気がいるやろ?

駿¦謙杜は俺の事別に好きじゃ、

恭¦好きじゃない?ほんまにそう思うん?

駿¦え?

恭¦気づいてなかったん?駿佑くんが来た瞬間、あの子初めて笑ったんよ。それまで震えてたのに。

駿¦え、、

恭¦きっと襲われてる時も、あの子の頭の中にいたのは駿佑君だけやと思うよ。

駿¦ほんまかな、笑

恭¦それに彼言ってたで?''駿くんは王子様やから僕にはもったいない''って。

車のルームミラーに反射した恭平くんは

何かを伝えたそうに微笑んだ。

恭平くんに言われるまで気付かなかったし、知らなかった。

謙杜がそんな事思ってるなんて。

もったいないのは俺の方。

あんなに純粋で可愛い子、俺にはもったいない

もったいないけど、

好きになっちゃった。

恭¦大切な事は言葉にしないと。鈍感なあの子には伝わらへんよ?笑

駿¦・・・

恭¦謙杜くんの事好きなんやろ?

駿¦それは絶対ない

恭¦へーそうなん?じゃあなんでここまでして助けようと思ったん?

駿¦それは、、

恭¦俺にはもう2人がお互いにとって欠かせない関係になってるように見えるけどなー

駿¦それってどういう、、

恭¦さぁ?それは駿佑くん自身が考える方が面白いんちゃう?俺からの宿題や!

駿¦・・・面白くなんか、ないし、、

恭¦そっか笑 面白くなくても俺は十分楽しいで?

人の恋は楽しむためにあるものやないんやけどな

まったくこの人には話が上手く通じない。

考えるのはもうしんどいけど

俺だって思ってる

"駿くんやないと嫌や"

あれが本心だったらどれほど良かったのだろう、と。

そう願ってしまうのはきっと

彼を本気で愛してしまったからなのだろう

俺は好きだけど

謙杜にとってあれは所詮建前。

あんな風に俺を見つめる瞳が

建前なんかじゃなかったら良かった。

この現状を作ったのは俺なのに

今はすっごくこの状況がもどかしくてモヤモヤしているなんて、

数日前の俺は考えもしなかったんやろうな。

人生で初めて嘘が嫌いになって

人生で初めて嘘が現実であってくれと

願う瞬間だった。

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