第13話

親バカと過保護
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2023/05/28 15:00
駿佑side

謙¦・・・あの、、そろそろ戻りません?

離れた唇から紡がれた言葉に

余韻を楽しむ暇もなく現実に引き戻される

駿¦えーこのまま帰ろうや

謙¦僕もそうしたいんですけど、大吾くんに病院中徘徊されたら困るんで

駿¦意外と塩対応なんやな

謙¦いちいち構ってたら日暮れますから

そう言いながらも優しく微笑む謙杜は

俺の手を引っ張ってトイレを出た。

そして、あの人の病室の前にある名札を俺に見せつける

謙¦なんて書いてあるか呼んで?

駿¦・・・西畑大吾様

謙¦ほら

駿¦すみませんでした

謙¦分かればよろしい

天使のような笑顔を向けて扉をノックしている彼の手を

自分の手でそっと包み込んだ

謙¦・・・っ!?///

駿¦こっからは婚約者やろ?

謙¦・・・これ絶対しなあかんやつですか、?///

駿¦んー?照れて顔真っ赤にして熱出すんやったら辞めてもいいよ?

謙¦はぁ、、


大¦あのー、どうぞ?

ノックしたままの扉が気になるのか

扉の向こうのその人が不思議そうに話す声が聞こえた

謙¦失礼しま、、

大¦けんと!!どこ行ってたん!?大ちゃんめっっっちゃ探してんで!?

謙¦ごめんちょっと、、まぁ色々あってさ、、

大¦ふーん、、で?そちらの方は?

謙杜に話す時の声とは少し違った低い声が俺の鼓膜に響く

駿¦初めまして。謙杜さんと婚約させて頂いている、、神谷、と申します

咄嗟に嘘をついた

多分大吾さんは道枝という名前の珍しさも、道枝と謙杜の関わりも全て知っている。

ここで本当の事を話せば、俺が謙杜と偽の結婚をしようとしている事も気付かれるだろう

大吾さんがどんな反応をするのかは分からないけれど、きっと肯定的ではないと思う

俺のせいで親子の絆を裂きたくなかった。

それに万が一これが外部に知れたら

俺を狙っている変な連中の矛先が謙杜に向いて、

彼の身が危うくなるだろう

本当の事を話したら

この手を離してしまうかもしれないから

いや、離れてしまうかもしれないから

だから俺は嘘をついたんだと思う

大¦・・・婚約、?

駿¦はい

大¦謙杜、俺そんなん聞いてないで?

謙¦・・・あ

大¦そもそもいつから付き合ってたん?

謙¦えーっと、、それは、

言葉を詰まらせた謙杜が俺の顔色を伺うように覗きながら助けを求めてくる

駿¦一年ほど前からです

大¦そんな前から?

駿¦はい

大¦どこで知り合ったんですか?

駿¦他校でしたが偶然同じ時間帯の電車で同じ車両に乗っていましたので、そこから意気投合してお付き合いを始めました。

大¦そうですか、、でも謙杜は自転車登校でしたよ?

駿¦雨の日にお会いして、僕が一目惚れしまして。

謙¦そ、そう!それから僕もこの人かっこいいなって思い始めてさ、な?

駿¦そやな

大¦そりゃあ確かに謙杜は可愛いですけど、顔で一目惚れですか?

駿¦お友達と楽しそうに話されていて。その時の目がキラキラしていてとても魅力的でした。

大¦え!?謙杜、、友達いたん!?

あ、びっくりする所そこなんや。

絶対違うと思うねんけど

謙¦そりゃ僕にも友達ぐらいいたで?

大¦え!お名前は?

謙¦・・・小島

大¦こじま?小島何ちゃん?

謙¦男の子な?小島、、健

大¦小島健ちゃん?

謙¦・・・もうそれでいいや

いや、、どちら様?小島健って誰やねん

多分本人も分かってへんし

大¦そっか、、あ、じゃあ謙杜がさっき言ってたキスのお相手は神谷さん?

謙¦ちょっと!大吾くん!///

駿¦けんとー、何の話かなー?

謙¦い、いやぁ、、何やろなぁ、?///

塩対応の謙杜が頬を赤らめて俺の話をしていたなんて

想像するだけで可愛くて、緩む頬を何とか抑える

大¦そっかぁ、、謙杜も遂にそんな年齢なんやなぁ、、なんか泣けてくるわ

謙¦もうほんまに泣き虫やねんからやめて

大¦えぇひどい泣

駿¦でも謙杜、大吾さんの事大好きなんやろ?

大¦え!?謙杜がそんな事話してたんですか!?

謙¦話してへんわ!もう急に辞めてやぁ、///

駿¦じゃあなんで俺に黙って家出たん?

謙¦そ、それは、、めんどくさかったから

駿¦ほんまは会いたかったんやろ?心配で心配で、やっと連絡が来たから絶対会いたくて俺に何も言わず会いに行ったんやろ?

俺に話せば大吾さんと会うことを止められるかもしれない

だから謙杜は話さなかったのだろう。

大¦あんたー!めっちゃいい事言うなぁ!

大吾さんは俺の背中を思いっきり叩いてにっこり笑う

駿¦いったぁ、!

大¦あはは笑 謙杜今の反応見た!?めっちゃ痛そうやったなぁ!

謙¦見た!あーほんまおもろいわぁ笑

正直俺には何がそんなに面白いのか一切理解できないけれど

ケラケラと笑う2人の顔が全く同じだという事は容易に理解出来た。

優しくて、明るくて

純粋という言葉が似合いすぎる程に綺麗な笑顔。

蛙の子は蛙、なんて言うけれど

本当の親子ではないのに凄く似ていた。

正直約束を破ってでも会いたいと思う相手が俺以外の人間なのは少し心外だったけれど

でも、君には笑顔が似合うから

だから

少しだけ、ほんの少しだけ

西畑大吾という存在がいてくれた事が嬉しかった。

こんな素敵な笑顔を守り続けて、育ててくれたから。

彼といる時の謙杜は、今まで見た事のないくらいに幸せそうな顔をして笑っていた。

きっと彼以外の他の人間が謙杜を育てていれば

彼以外の人間が謙杜の親なら

謙杜は一生、あんなに綺麗で可愛い笑顔を見せることは無かっただろうから。

大吾さんと謙杜は

きっと本当の意味で

親子なんだと思う

謙¦そろそろ帰るな?

大¦えぇ、、また来てな、?

謙¦はいはい笑

大¦あ、神谷さんも、な?

数時間前まであんなに怖そうだった大吾さんが

俺に向けて優しく微笑んだ。

駿¦お邪魔じゃないですか、?

大¦邪魔なわけないやん!むしろ大歓迎やで?

"大歓迎"

その言葉は、俺が心のどこかで密かに求めていた言葉だった。

自分を必要としてくれている人がこの世にいる

自分の事を受け入れてくれる人が目の前にいる

そんな些細な幸せが

愛されるという事を知らなかった俺にとって、謙杜に出会った時と同じくらい大きな幸せだった。

大¦謙杜の彼氏が神谷さんで良かった。これからも息子をよろしくお願いします

本当の父親では無いけれど

彼は謙杜の事を息子と言った。

きっとそれだけ大切で、愛おしい存在だから。

そんなに溺愛しているのに俺との関係を認めてくれたのは、単に大吾さんがとても寛容な人だからだろう

謙¦じゃ、また来るなー

大¦ばいばーい!

大吾さんは、俺達の姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。

エレベーターの中、また2人きり。

繋いでいた手が離れるのを拒むように

お互いに力を強めたのが分かった。

それがなんだか嬉しくて

しばらくの間繋いだ手を見ていると、それに気づいた彼が唇を尖らせて俺を見た。


謙¦・・・うそつき

駿¦それは何に対して?

謙¦嘘つきすぎてもう分からんくなってるじゃないですか。全部ですよ全部!!

駿¦どっから?

謙¦名前も、馴れ初めも、この関係も。

駿¦ほんまの婚約者じゃないから寂しいん?

謙¦・・・別に?

駿¦へー、ちなみに俺は寂しいで?いつかは離れなあかんことも、その他諸々のことも。

謙¦・・・ほんま、、嘘ばっかり、笑

優しさの中に儚さと寂しさが混ざった横顔が

俺の事をどう思っているのか伝えてくれたような気がした。

まだはっきりとは分からないけれど

俺の中での彼の存在のように

彼にとっても俺が特別な存在なのだとしたら

お互いの命が消えるまで

いや、命が消えたとしても

一生隣にいたいと思った。

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