息を止める。まぶたを閉じる。
燃えさかる火の中を入った私たち。
─熱い。
そう思った瞬間、“熱い”という言葉は消え、青年の声が耳元で聞こえる。
「ゆっくり吸って…」
我慢していた呼吸をする。
でもまだ目は開けられない。
─ブワッ…!!
強い風が顔に吹きかかる。
冷たくも無く、温かくも無い優しい風。
でも、勢いある風。
「目を開けてみな、チコ。」
恐る恐る目を開くと、そこには男の子が一人、草原の上に立っていた。
「やあっ!」
男の子は私に言っているのだろうか。
見渡す限り、私と青年以外、誰もいない。
「いきなりじゃ、チコも困るだろ。」
青年は男の子に軽い口調で話している。
「…えっと、だれですか?」
男の子は私に近づき、私の額に手を当てた。
「熱は無いな…」
「…や、やめてください!!」
咄嗟に手を払いのけ、後ろに3歩ほど下がる。
男の子は目を丸くして心配してそうにこちらを見ている。
「…おれ、千恋と柳吟といっしょに来たよね??」
「えっ…
──なんで名前を知っているの…?」
青年は私のことをチコと呼ぶ。
だから、“せんれん”とは呼ばない。
私も青年のことを“りゅうぎん”なんて呼んだことが無い。
彼はなぜ知っているのか。
「あ、そっか。今は人間なのか。
悪い悪い!おれは初暖!じいさんの飼い猫さ。」
「…初暖…!?」
「おう?」
初暖って…
─女の子じゃ無かったの!?
「なんで、男の子!?」
私は再び後ずさりをする。
青年は笑いをこらえているようだが、私には今の状況に何の面白みも感じていない。
「なんでって…じいさんが間違えたからだよ。」
「フッ、ハハハッ!チコ、面白過ぎ(笑)」
青年は涙を浮かべるほどお腹を抱えて笑っている。
レディーに対して失礼ではないか。というほどだ。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない…」
「ごめん、ごめん(笑)」
まあ、今はそんなことどうでも良い。
まず気になることが山ほどあり、どれから質問したら良いのかわからない。
だがまず、この質問だろう。
「…で、ここはどこなのかしら?」
青年はこくりと頷き、初暖と目を合わせた。
「ここは、“猫成界(びょうじょうかい)”
猫が生きる世界だ。」
私の脳は動きを強制的に停止した。
彼はなにを言っているのか?
またも訳が分からなくなってしまった。
猫が生きる世界?
メルヘンチックすぎるわよ!!(怒)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。