第6話

猫成界の王城
26
2018/05/09 21:46
「猫成界を創ったのは、黒政家の祖先神と称される、初代・黒政貴典(たかすけ)が築いたと言われている。」

「おう!そういや、たかジイだったな!」

どうも初暖はかなり昔から生きているらしい。

「初暖って、いくつなのかしら?」

「俺?…わかんねーな。
多分、1500歳ぐらいだな。」

せ、せんごひゃく…
初暖が老けている様子は無い。なのになぜ、そんなに生きているのか。

「1500って…騙してるの?
普通に考えてそんなに生きられないでしょ!
長生きどころじゃ無いわよ!?」

初暖は俯き、重たい空気を醸し出す。

「だって俺…不老不死だし…」














彼は──

















──死にたくても死ねない



「チコ、だからこいつは猫成界の正式な王族であり、その王族のトップでもある。
この世界で猫の姿と人間の姿になれるのは初暖だけだ。」

初暖がこの世界の王様?ってことなのかな。
今私達がいる草原には猫の姿など一匹も見当たらないが…。

「でも、誰もいないよ?ここ。」

「ふっ…こっち来てみ。」

青年は一吹きしたのち、再び私の腕を掴み、草原の淵へと足を進める。

「…うわぁ~!!綺麗ね…」

草原の下には古代ヨーロッパのような石や煉瓦を用いた家が建ち並んでいた。
そのまわりには水が流れ、草木が生い茂っていた。

「町もかなり大きいのね…」

「ああ。東京と同じほどの大きさだな。
チコ、あんまりはしゃぐと落ちるぞ。」

「私これ、本で読んだことがある。
“水の都ベネツィア”でしょ?」

「確かに似てるな。じいさんの本だろ?
俺も読んだことあるな…」

水の都ベネツィアや、アドリア海の女王などと別名を多々持つ国、ベネツィア。
海の上に浮かぶ美しさは見たことはないが、本の中からでも伝わるその風景は、ふと彼らが住む世界に似ていると感じた。

「って…ねこのくせに、猫の姿はしてないのね。」

「ああ。ここは猫成界だからな。
あいつらが人間界に出たら猫になるんだよ。」

「へぇー…」

不思議な世界だなぁと渋々思うが、あまり現実感が湧かない。
まだ夢を見ているような気分だ。

「じゃあ、初暖の城に行くか。」

「おうよ、あがっていきなー!」

いやいや、ここからでも見えるよ?
草木で囲まれ、水が悠々と流れるこの現実離れした世界の中央にそびえるのは、堂々たる王城。
それは、権力の象徴でもあった。
真っ白な石を積み重ね、平に削り、細かく文様のようなものが壁画のように彫り込まれている。
その美しさというのは、太陽の光があたるたびに、きらきらと反射し浮かび上がる。
それと共に、町に流れる水や滴の付いた草木にも反射し、なんとも幻想的な世界を演出する。

「初暖が…ねぇ…」

ここに来てからと言うもの、驚きとため息が絶えない。
いつも寝ている初暖が、猫の世界で1番偉い猫には全く見えない。

「チコ、大丈夫か?疲れてないか?」

無口になっていたからか、青年は私のことを気に掛けてくれたのだろう。

「うん、平気だよ。」

足元をみると、前坪が取れかけていた。
今にも切れそうな様子でゆるゆると動く。

「そうか…」

青年は私の歩くスピードに合わせ、崖側を歩いている。
彼は本当に優しい人なのだろう。
ただ、彼がなぜ、ここへ連れてきたのかだけは未だに解らない。

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