『人間』は、アルトのほうにまっすぐ歩いてきた。
気づかれないように、小さな声でポプラの木さんに聞いた。
ポプラの木さんの声は人間には分からないから、ふつうにしゃべっても大丈夫。
アルトと『人間』が、何かはなしている。
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アルトがうそをついてる。
やっぱり、『人間』たちがわたしをさがしているのは本当みたい。
アルトは、ちょっと間をおいてから、言った。
わたしと、全然ちがう。
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side:ポプラの木
『――2mを超えるような大男で、髪は緑色、だそうですよ。』
アルトの嘘は、とても考え抜かれたものだった。
ストラの外見と真逆、というだけではなく、「大男」とすることで、捜索隊の目線を必然的に上に向けさせている。
ストラは身長が低いため、見つかる確率は格段に下がる。
また、髪色の緑も、俺を含め森の木々と同色だから、そう簡単に見つけることは出来ない。
捜索隊は、緑髪を見つけるために血眼になって探すだろう。
どこかで、その名前を聞いたことがある気がする。
俺は木だから、根を張ったこの場所から動くことは出来ない。
知っていることはこの森で起きた事と、たまに鳥たちが運んでくる外の世界の僅かな情報だけだ。
俺の記憶にあるということは、そのどちらかにアルトが関係したということ。
でも、それがストラや俺たちに危険を及ぼすことはない、と直感している。
これからストラと旅をするには、おそらく、問題ない。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。