ただひたすら走る、走る。
けもの道を、木々の合間を、藪や茂みを、ただ走る。
こんなに苦しいの、生まれてはじめてだよ…。
また、走り出す。
ナラの木さんを通り過ぎ、右。そのまままっすぐ。クヌギの木さんまで…
痛ったぁ…
足がもつれて転んじゃった…。
その時、
聞いたことの無い人の声。
…こわい…こわいよ…
ナラの木さんの声がして振り返る。
――でも、振り返らなかった方が良かったのかもしれない。
ナラの木さんは、自分の枝を切り落として人間の行く手を阻んだ。
だけど、
そう言って、人間は、大きな斧を取り出して―――
背を向けて、逃げ出す。
もう、つらいよ…。
ただ前へ、前へ!
クヌギの木さんが、大丈夫って言ったから、きっと大丈夫。
きっと、そうだよね?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。