この香り。
この姿。
ウォヌさんだ。
追いかけてくる男の人たちから
必死に逃げて、車に乗せられ
お花屋さんに向かった。
車の中は無言だった。
手は繋がれたままだった。
お店の中に入り、
たくさんの花に囲まれる中
椅子に座らされ、じっと見つめられる。
いつもとちがう冷たい表情。
チクリと心臓に針が刺さっているみたい。
そんなの知らなかった。
確かに、社長にキスされたとき。
「ドキドキすると変わるんだね」
記憶にある。
だからか。
しゅあも気付いてたんだ。
きっと。
彼は私の頭の上に
ポンポンッと優しく手を置いた。
何も言わず
彼は抱きしめてくれた。
ぶわっと何かが込み上げて。
彼の香りに包まれた。
今のあなたの香りは
優しい。
でも少し甘いの。
小さな声で言った後、
彼の香りはいっそう甘くなった。
わからないけど、
それを聞いた私の香りも
甘くなったと思う。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!