「・・・え・・なんで・・」
一瞬、なにかの悪い冗談かと思ったが、普段の性格から考えて、それはない。と思った。
確かに、さっき名前を呼んだ時も、まるで自分でない ような、表情を浮かべていた・・。
じゃあ、本当に何も覚えていないのだろうか。
ライブ中に倒れたことも。
自分が「アンダーバー」であることも。
俺が・・・・・
「詩人」であることも。
そう考えると、戸惑いと同時に、胸を押さえつけられるような苦しさが襲ってきた。
どうして?!
どうして?!
なんで・・・・・
忘れたの・・・・?
・・・・・・・・・少し前にこんな話を聞いたことがある。
車に惹かれた高校生が、頭を打った衝撃で
記憶を失った話を。
まさかそれではないだろうか、
たとえ、2階から落ちたとしても打ち所が悪ければ、記憶喪失になりかねない。
ましてや、ステージから落下した観客席までは十分すぎるほどの高低差があった。
もしかして。と思う気持ちと、
そうならないでくれ。という気持ちに苛まれ、
「・・・・・また・・・・来ますね 」
とだけアンさんに言い残し、
超学生さんの、待ってください!という言葉も振り払って、逃げるようにその場を去った。
去る時に、アンさんがなにか言っていた気がするが、きっと、耳を傾けてしまえばその場で
泣いてしまうことになる気がしたから、振り向けなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。