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第1話

卒業生入場
492
2018/02/24 09:51
ここにある木は全て桜だって気がついた。
それも、淡いピンク色の桜だと。
桜の背景には、飛行機雲の境界線が引かれた空が広がる。
まるで、空が2つに対立したみたい。
こんな景色、もう2度と見れない。
あなたはまた顔を上げ、この景色を目に焼き付けた。
沙奈
あなたちゃん?
後ろの子に呼ばれて前を向くと、列が進んでいた。
あなた

あ、ごめっ!

急いで4歩前に出た。
お母さんに袴を着せられたせいで、上手に歩けない。
あなた

わっ!

思わず転びそうになったが、なんとか持ちこたえた。
何度も何度も通ってるのにコケてしまい、なんだか不思議な気持ちになる。
また列が進んだようで、あなたはまた前へ進む。
次は慎重に。
まだ入場すらしていないのに転んではたまらないと、6歩かけて歩いた。
あなたは6年D組。
出席番号は24番で、後ろは10人ほどいる。
とにかくとても人数が多い小学生だった。
あなた

わあ!

やっと卒業式の会場である体育館の入り口の前に立つ。
CDの音割れがひどいが、明るいクラシックが流れている。
在校生の5年生が、手がちぎれんばかりの勢いで拍手している。
天井には色とりどりの千羽づるが吊るされている。
バスケットゴールの中はちぎった折り紙が詰まっている。
前の人が赤い印を通り過ぎた。
あなたは体育館の中に一歩足を踏み入れる。
袴の裾を軽く持ち上げて。

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