涙が収まった。
卒業は変えられない。
だから、精一杯卒業式をやる。
目が真っ赤に腫れた指揮者が前に出る。
さっき一緒に泣いた、同じクラスになったことない子。
そして聞き慣れた「旅立ちの日に」の前奏が流れ出した。
練習の時みたいに、脳裏に替え歌が流れ出す。
『白いご飯の上に』
『唐揚げをのせて』
『わずかな量のオカズでも』
『デブは食いだす』…
練習の時は、みんなで笑いをこらえながら歌った。
たまに吹き出す子がいて、怒られたっけ。
だけどどうしだろう。
みんな必死で心を込めて歌う。
歌がひとつになって響く。
あなたも真剣だった。
最後だから?
理由はともあれ、気持ちが良かった。
微笑みが浮かぶ。
一瞬雨が止んだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!