2021年 8月29日
10年前のこの日
彼に会う予定だった
幸せなことしかないはずだった
私が会いたくて堪らない人
彼は NonStopRabbit というバンドで
去年の12月9日にメジャーデビューを果たしていた
画面の中で楽しそうに笑う彼は
あの時とちっとも変わっていなくて
いや、変わっている
彼は前に進んでいる
きっと私との約束なんて…
変わっていないのは私だ
そんなことを考えながら
1人で暮らすには大きすぎる部屋を出た
電車に間に合わない
そう思って走り出そうとした時
バンッッッ
誰かとぶつかって尻もちを着いてしまった
ぶつかった人が怖い人じゃなさそうでよかった
と、安心すると同時に
どこかで聞いたことのあるような声に懐かしさを覚えた
手を差し伸べてきた人の顔を見ると
それは間違いなく
熱く語る私を見て
困っている彼
そうだよね、覚えてるわけないよね
たくさんのファンがついて
10年前に会った私のことなんて…
あなたと名乗る女の人は
少し悲しそうな顔をして
走り去って行った
そんな知り合いいたっけな?
しかも10年前に助けてくれたって
なんの話だろう
これも一応メモしとくか…
俺は10年前たった今でも病院に通っている
小さなことでもいいからメモしておくように
お医者さんから言われた通り
こんな風に頭が痛くなるときも
でも頭が痛くなる時は全然ない
人と話して頭が痛くなったのははじめてだし
なんか変だな…
1人取り残された電車のホームで
ボーッと突っ立ってる変な人
そんなふうに思われるのはいやだ
とりあえず走らないと間に合わなさそうだし
走るか…
走っている時に見えたひまわりがどうも懐かしくて
まただ
ひまわりとバスケのネットを見ると
異常に頭が痛くなる
そんな頭を押さえつけながら
受付に向かった
受付の人があたふたしているのをお構い無しに
話を続けるお医者さん
まあフレンドリーな人でいいけど…
10年前からずっと同じ先生に診てもらっていて
この人は俺のいろんなことを知っている
記憶が無くなった部分までも
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。