第32話

扶け損なった旧友の墓で
461
2020/03/08 02:16
鬼蝶side
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……何時来ても、此処の墓地は静かなものです
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……あら、先客でしょうか
私の目当ての場所に、人影が一つ。
見慣れた人影でした。
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
矢っ張り。安吾さんじゃありませんか
坂口安吾
坂口安吾
あ、どうも
坂口安吾
坂口安吾
貴女もお参りですか?
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
ええ。最近、余り来ていなかったので
彼は坂口安吾さん。内務省異能特務課参事官補佐をしている、凄い人です。
そんな彼が、何故こんな処に居るのか?
理由は簡単です。此処に居る人が、私達の共通の友だから。
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
元気でしたか?
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……織田作さん
墓石に向かって、私は声をかけました。
正しくは、墓石の後ろに、ですが。
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
安吾さん、お忙しいのではありませんか?
坂口安吾
坂口安吾
仕事の合間を縫って来たんです
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
成程
坂口安吾
坂口安吾
そう云う貴女こそ
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
未だ、うちのお店は開いていませんから
坂口安吾
坂口安吾
そうですか
坂口安吾
坂口安吾
……貴女が羨ましいです
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
何故ですか?
坂口安吾
坂口安吾
だって、貴女には彼が見えるんでしょう?
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……まあ、そうですね
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
話す事は……できませんが
私は昔から、亡くなった人を見る事ができました。
話す事はできなくても、其の人の表情で、今、どんな事を思っているのか、判ってしまったのです。
坂口安吾
坂口安吾
彼は今、どんな表情をしていますか?
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……笑っていますよ。私達が来て、嬉しいみたいです
坂口安吾
坂口安吾
……そうですか
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……貴方にも、見せてあげられたらいいんですけどね
私は花束を置いて、立ち上がりました。
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……そろそろ戻ります
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
亦何処かで
私は、安吾さんと織田作さんに背を向けて、歩き出しました。
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
……安吾さん
尾崎鬼蝶
尾崎鬼蝶
見えるのは、いい事ばかりじゃないんですよ
そんな私の呟きは、彼には届きませんでした_____。

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