第85話

それでもあなたを待ってる。(ディルック)
2,001
2023/04/14 14:31
辺りはすっかり暗くなり、冷たい風が吹き始めた。

時計を見る。指定した時間はとうに過ぎていた。
……まぁ、わかっていたんだけど。
あなた

……今日も来なかった。

約束をした訳じゃない。
待っていると一方的に告げたのは自分なのだから、この結果に文句など言えない。

ただ、今日は何となくこのまま帰りたくなかった。
もう少し風を浴びていようか。

夜のモンドは、なぜだかどこか切なくて、寂しい。
あなた

バルバトス様、今日の風は……少し冷たすぎるんじゃないかな。

分かっているんだ。

自分では、彼の役には立てない。
彼をひとりにしたくないなんていうのは、ただのエゴで。

……風がまた少し強くなった。
溢れそうな涙を、隠してくれているように。
ディルック
……。いつまでそこに座っているつもりなんだ。
あなた

……!

聞き間違いかと思った。
振り返ると、彼が腕を組んで立っていた。
あなた

覚えてたの?

ディルック
……来るつもりはなかったよ。
2人で会えたら、話そうと思っていたことが沢山あった。
普段忙しいディルックと、向かい合って話をする機会なんて何年もなかったから。

……なのに、いざ2人きりになると、言葉が出てこない。
ディルック
用がないんなら……
あなた

待って!

ディルックの言葉を遮って、彼の目の前まで走った。
すぐ目の前で俯くあなたを見て、ディルックは少しだけ困ったように目を伏せた。
ディルック
……今日は冷えるんだから、君もずっとこんなところにいない方がいい。
僕のせいで風邪を引いたと言われても、僕は何も出来ないよ。
あなた

……うん。困らせて、ごめんなさい。

伝えたいこと、沢山あったの。
けど、あなたが困るならもう……やめる。

あなたを待つのを、やめるね……。

必死にこらえたけれど、最後の方は涙声になった。
ディルックは黙っていた。

……黙っていることが答えだと思って、あなたがその場を去ろうとした時、ディルックが口を開いた。
ディルック
僕はまだ君の口から何も聞いていないし、
……別に、迷惑だとも僕を待つなとも言っていない。
あなたは足を止めて、驚いたように振り返る。
ディルックは真っ直ぐにあなたを見て、表情を変えずに続ける。
ディルック
……今日は、ごめん。

正直、時間を作れるのがいつ頃になるのかは分からないが……いつか君の気持ちが整理出来たら、君の考えを聞かせて欲しい。
あなた

……ありがとう。

その言葉は優しくて、そして残酷だ。
突き放してはくれない。諦めさせてくれない。
それでも、心は温かくなった。

ああ……あなたの一言で、世界が変わっていく。
きっとこれからも苦しいんだろうけど、
それでも、あなたを待ってる。

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