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第5話

歓迎レクリエーション
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2022/01/31 01:29
「やぁやぁお二人さん!グッドモーニーング!」

 悠々と出席簿を持ってやってきた一年担任のこの男、予定より二十分遅刻である。
 伏黒と葛城が冷めた口調で「おはようございます」と言いながら睨むように見ると、ごめんごめん、と悪びれなさそうに教卓へ立つ。

「いやぁ、ちょーっと下見に行ってたら遅れちゃってさ!二人共自己紹介はもう済んだ?」

 その質問に葛城ははい、と返事するが、伏黒は五条から視線を逸らす。やっぱり合わなかったか、と五条は思わずといった風に苦笑いを浮べた。元々二人が相性悪いのは予想していたし、特に咎める訳では無いが。
 まぁ気を取り直して、とでも言うようにパンと五条は手を叩く。

「それでは!これから……このグレートティーチャー五条による、葛城あなたの特別歓迎会をやりまーす!!」
「……は?」
(マジかこの人)

 不満げな声を上げたのは葛城である。
 ここは呪術高専、呪いを祓う術を身に付け磨く学校。歓迎会などという稚拙な遊びに付き合う気など葛城には一切無い。
 然し相手は五条悟。彼がどんな人間であるか、葛城には未だ定かではないがこれだけは分かっている。この人が人の話を聞かない人間だろう、と。というか昨日した少しの会話で痛感していた。
 とはいえこの人も特級術師。くだらない事で時間を無駄にしたりはしないだろう、とまで考えて、葛城は五条の言葉に従うことにした。

 因みに伏黒は、こういった五条の思い付きは毎度の事なので既に諦めていた。何事も諦めは肝心である。





「……」
「……」
「……」
「……」

 補助監督 伊地知潔高二十六歳独身。彼は今、途轍もなく気まずい状況に置かれていた。

 事の発端はその日の早朝。出勤した伊地知に上司である五条が、何の脈絡もなく「車回しておいてー」と言ったからだった。
 そうしてやってきたのは五条と新入生二人。一人は顔見知りだがもう一人は新顔の女の子で、乗車する際も礼儀正しく伊地知に挨拶をしてくれた、気立ての良い子である。

 五条さんの使いパシリの自分にも礼儀を忘れない心優しい女の子、きっと伏黒くんとの仲も良好────と思っていたのが間違いだった。
 誰一人喋らない張り詰めた空気に胃が悲鳴をあげる。まだ五条さんが不機嫌の時の方がマシだった、と後に伊地知は語る。実際はどっこいどっこいであるが。

 それにしても仲が悪いのだろうか、とバックミラー越しに後部座席の若人二人を一瞥する。伏黒は無言で窓の外を眺め、葛城はお手本そのもののように足を揃えて座り前を見ている。乗せている伊地知が堅苦しくなるほどだ。

 因みに助手席の五条は先日買った石川県名物のミルクまんじゅう 番傘を頬張っている。本人曰く朝のおやつらしい。正直伊地知は五条が何故糖尿病にならないのか不思議で仕方がない。あんなに糖分を摂ってたら伊地知と違う原因で胃に穴があきそうである。

「───あの、五条先生」

 信号待ちの最中に突然葛城が口を開き、五条はまんじゅうを口に入れたまま「んー?」と聞く。

「アレはなんですか?」

 そう言って窓の外を指で指す。聞かれているのは五条だが、伊地知と伏黒も何となく気になって、葛城が指し示したものを見た。

「……コンビニだろ」
「こんびに?」

 思わずそう口にしてしまった伏黒である。

「お前、コンビニ知らないのか?」
「…………」

 沈黙する葛城。恐らく、今の今になって世の中について無知であることを恥ずかしく思ったのだろう。見せる顔がないとでも言うかのように俯いている。
 まんじゅうを飲み込んだ五条はパッと笑って言った。

「いやぁ、世間知らずにしても程があるよね!僕でも高専に入学する時コンビニぐらいは知ってたよ!」
「五条さん、それフォローになってないです…」

 いや、この人の場合は追い打ちか、と今更ながらにそう思う。五条が誰かを優しく思いやるところなど見た事がない。寧ろ、そんな事があれば伊地知は迷わずに眼鏡を新調しに行くだろう。

 信号が青色に変わり、伊地知は車を発進させる。そうして再び、車の中に重苦しい沈黙が戻ってくるのであった。




 そうして数時間走行し、遂に目的地へ到着する。そこは少し人気のない半都会の町にある寂れた廃校だった。
 車から降りた葛城は、すぐにその廃校の中にいる気配を感じ取る。

「……いますね、呪霊」
「お!よく分かったね〜!流石あなたちゃん!」
「ふざけないでください」

 キッ、と眉をひそめて五条を睨む。
 葛城は実の所五条が苦手だ。掴み所がない飄々とした人物で大の悪ノリ好き、というのもあるが、それ以上に先日から幼子でも相手にするかのような五条の態度が癪に障るのである。

「この学校は数年前に女子生徒が二人、教師が一人亡くなってる」
「一年に三人…?!何があったんですか?」

 驚いた様子で伏黒が聞く。一方で葛城は、何故学び舎で死人が出るのか、と疑問に思った。

「女子生徒の一人はいじめが原因で彫刻刀で首を掻っ切って自殺。もう一人はその女子生徒をいじめた子で、その子が自殺してから学校生活が難航して追い詰められ首を吊って自殺。そしてその女子生徒を受け持っていた担任の教師も、保護者や教育委員会から責任を追われて自殺した。正に負の連鎖だね!」

 とんでもない話である。
 口にするのも悍ましい事を明朗に語る担任の倫理観を、伏黒は今更ながらに疑った。
 隣では葛城が真面目な顔をして「いじめとはなんですか?」と聞いている。葛城家のお嬢様、というのは知っていたが、コンビニと言いなんと言い、流石に知らなすぎなのではないだろうか。

 五条は学校について話終わると、校門から学校の敷地内へ入っていく。伏黒と葛城も伊地知に挨拶をしてからその後を追った。

 外から見ても気味が悪い学校だったが、近くで見ても気味が悪い。日中であると言うのにすぐそこの裏山のせいで日が差さず、屋上の柵には数羽の鴉が羽を休めている。

「懐かしいなぁー、去年も一年連れてこんな感じの学校に行ったっけ」

 そう五条が大きな独り言を呟く傍ら、葛城が囁くような声でポツリと呟く。

「3級相当三体、2級相当三体……1級相当一体」

 偶然それが聞こえた伏黒が思わず葛城に目を向けると、何故か彼女と視線がかち合う。相変わらず何を考えているか分からない。
 何か真意があるのかと考えるが、思案する最中に五条が話し始めたので、すぐに思考は霧散した。

「それじゃあこれから君達には、この学校の呪霊を祓って貰います!」
「……はあ」
「……呪霊の祓除にそう騒がしくする必要は無いと思いますが」

 イェーイ!と上滑りな声で言う五条に、呆れ返る伏黒とそもそも理解出来ていない葛城。
 塩すぎる生徒の反応に五条はあまりにもテンションがだだ下がるのを感じた。ブツブツと文句を言いながら蹲り、地面をぐりぐりと指で押す。

 それを鬱陶しげに見ていると、伏黒さん、と葛城が話しかけてきた。

「1級と2級二体、3級一体は私が相手にします。伏黒さんは2級一体と3級二体を祓ってください」
「は?ちょっと待て、いくらなんでもそれはお前の相手にする呪霊が……というか、なんで見てないのに分かるんだよ。術式か?」
「……そう易々と術式の内容を説明することは出来ませんが、目視で確認しました。私は2級術師である貴方より強いので、ご安心を」

 いや、と反論しようとするが、空いた口から言葉が紡がれることは無かった。
 確かに、伏黒は葛城の実力を知らない。そもそも伏黒と葛城は今日が初対面だ。どんな術式を使うのか、どんな立ち回りをするのか。お互いの情報が少なすぎる。そう考えれば、協力するよりも手分けして祓う方がお互いにとってやり易いのかもしれない、と伏黒は思った。

「ま、好きにやらせときなよ」
「五条先生」

 いつの間にか立ち直っていた五条は、伏黒の肩に手を置いて立っていた。その手を伏黒は煩わしそうに払う。

「多分あなたの実力は本物だよ。何せ恵と違って物心ついた時から英才教育を施されてたんだから」
「……だからといって俺より戦えるって保証はないでしょう」
「ま、確かにそれだけなら、ね」

 意味深な言葉と共に、五条は手の中指と人差し指を揃えて立てた印相のようなものを作る。

「"闇よりいでて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え"」

 どぷり、という音ともに、曇天へ泥土のような黒い何かがドームの形を描いて廃校の周りを囲む。すると廃校は、まるで闇夜に包まれたかのような空間になった。

「さて、帳も張ったことだし!それじゃ行こうか!」

 かくして一行は、魑魅魍魎が蔓延る危険な学校へ足を踏み入れたのだった。
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・読みづらいが多かった場合、台本書きにしようかなと思います。やっぱり読んでいただく方には楽しんで読んでいただきたいので。

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