第2話

荘厳なる少女
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2021/12/23 14:20
 四月上旬。桜が咲き誇り、夢と希望を持った若人達が新たな学び舎の門を潜る季節。

 入学の季節と言えば国内に二校のみ存在する呪術高等専門学校も同じで、一年担任を務める自称『最強の呪術師』の五条悟は校門の前で新入生がやってくるのを待っていた。
 五条が手塩にかけて育てた青年と地元で足止めをくらってる一人を除いた、三人目の新入生。彼女についての噂は五条もかねがね聞いていた。

 曰く、呪術界でも名のある名家『葛城家』の庶子だとか。
 曰く、幼少の頃から徹底的な呪術師教育を受けてきたとか。
 曰く、手に取る者を選ぶと云われる呪具に選ばれたとか。

 葛城家自体が彼女の存在を隠蔽したいのか、情報らしい情報は少ない。ただ葛城家は呪術界上層部との繋がりが深いため、きっと腐った思想に浸かった子供なのだろう、と五条は思い浮かべていた。実際、彼女が東京高専に入学する理由も容易に想像できる。



 一方その頃、東京高専が位置する筵山の坂を一人の少女登っていた。
 誰もが目を奪われる少女だった。新雪のような純白の頭髪に、紫水晶の如く澄みきった紫眼。冷たくも怜悧な雰囲気を漂わせる端正な顔立ちは、あらゆる人を魅了するであろう輝きを持っていた。

 彼女は表情一つ変えず、ただただ無言で坂を登る。時折彼女の羽織る黒い外套が風に吹かれて横に靡いた。それでさえも絵になるのだから、美人は得が多いものである。

 校門の前にある長い石段の前で、漸く少女は息を吐いた。それと同時に石段の上に立つ自分と似た白髪の男と無意識に目が合う。と言っても男は目隠しをしているので本当に合ったのかは分からないが。

 少女は石段を登り終えて男の前に立つと、礼儀正しくペコリと頭を下げて冷淡な口調で喋り始めた。

「初めまして、葛城家から参りました、葛城あなたと申します。五条特級術師殿で間違いありませんでしょうか?」
「うん、間違いないよ。僕が五条悟。気軽に悟先生って呼んでね!」
「では五条先生と」
「えぇー、連れないなぁ〜」

 葛城は自身の恭しい態度に反して軽快な受け答えをする五条に、一瞬眉を顰める。恐らくは想像していた『最強の特級術師』と大いに違うのだろう。
 然しそれをおくびにも出さず、校内に歩いていく五条の後を付いて行く。五条の歩幅が大きいためやや早足だが、きちんとした足取りには変わらなかった。





 東京都立呪術高等専門学校にある建物の数々は、姉妹校である京都高専と同様、殆どが儼乎げんこたる仏閣で形成されている。自然に囲まれた由緒ある光景を見れば、誰もが感嘆の息を零すことだろう。

 ふと前を進む五条が気になったことを聞く。

「そういえば君さ、どうして東京校に来たの?君の生家は奈良でしょ?京都校のが近くない?」
「そのようなこと、五条特級術師の方がよくご存知では?」

 皮肉のように聞こえるが、事実である。五条は彼女が東京校を選んだ理由の目星などとうについていた。

 葛城が東京校に来た理由は、御三家に名を連ねる禪院一族の相伝の術式を持った『伏黒恵』という同年代の青年を家筋に引き込む……つまり誘惑して葛城あなたと婚姻を結ばせるためだった。
 と言うのも、葛城家は御三家の禪院一族と加茂一族の血筋を持つ類稀な家系である。彼の持つ強力な術式『十種影法術』を血筋に加えれば、更なる利権を得るのは難しくないだろう。

 ですが、と葛城は立ち止まって五条を見つめる。

「彼が術式しか取り柄のない人間であれば、我々葛城家は手を引きます。使えず、信頼に足らない者は必要ありませんから」

 真剣な表情で見つめられ、ふぅん、と五条は内心葛城の評価を改める。

(芯までどっぷり腐った思想に侵されてるねぇ、この子。ここまで徹底的なのは初めて見たよ、葛城家の教育係もよくやるもんだ。恵とは合わなそうだな)

「ま、好きにしなよ。僕は非常時の時しか口は出さないから」
「……分かりました」
「あとちゃんと悟先生って呼んでよね!なーんかそういう仰々しいの嫌いなんだよ」

 そうおちゃらける五条に返ってきたのは、浅く面倒臭そうな溜息だった。

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