~薮side~
撮影が終わり、あの子がいたベンチに目をやると
あの子の姿はなかった。
《帰っちゃったのかな…》
少し寂しい気持ちになった。
ベンチの下に何かが落ちているのが分かる。
《なんだろ…》
近づいて手に取ってみると
それは、あの子の顔写真が貼られている
生徒手帳だった。
《なんでここに…》
生徒手帳をポッケに入れて車へと向かった。
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~あなたside~
お母さんに鍵を渡して
ダッシュでさっきいた公園に戻ると
そこには薮くんの姿はなく
片付けをしているスタッフ数人だけだった。
《いない…終わっちゃったのかな…?》
じわっと涙が目に溜まるのが分かった。
《もう、会えないんだ…
もう、あんな近くで話せないんだ…》
気づいたら両頬に涙が伝っていた。
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~薮side~
あれから約1ヶ月がたった。
未だにあの子に生徒手帳を返せていない。
今日はいたジャンの収録のため
メンバー全員揃っていた。
いたジャンのジャージに着替え
楽屋のソファに寄りかかりながら天井に向けた
生徒手帳を見上げる。
俺の隣に勢いよく座ってきた裕翔。
俺が持っていた生徒手帳を覗いてくる。
背後から手を伸ばして
俺から生徒手帳を奪おうとしてくる裕翔。
裕翔に気を取られてるうちに
スルッと俺の手元から生徒手帳が奪われた。
俺の言葉なんて無視して中をペラペラめくる。
あっという間に知念を囲むメンバー。
俺が入る隙間なんて1ミリもなかった。
「えー可愛い!」
「誰この子!」
「タイプだわ!」
ギャーギャーギャーギャー凄くうるさい。
一斉に皆の視線が俺に集まった。
凄い剣幕で近づいてくる伊野尾。
すっごく嫌な予感…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。