~ まいside ~
突然の言葉に頭が回らなかった。
いつもの癖で下を向いてしまう私。
その言葉と同時に
大きな手がふわっと私の頭を撫でた。
思わず体が震えてしまった私に
笑いながら話しかける薮くん。
頭の中は色んなことでパンクしそうだった。
と言って、頭を2回ポンポンとされた。
なんで…
なんでこんなにドキドキすることばかりしてくるの?
自分のファンだって分かったから…?
ねぇ、なんでよ…薮くん…
もう、心臓持たないよ…
ふにゃっと笑い
走って撮影場所に行ってしまった。
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撮影が始まってから
薮くんは一切こっちを向いてくれなくなった。
《 仕事に集中してるのは分かるけど…
こっち見てくれないかな…? 》
《 さっきまであんなに話しかけてくれてたのに… 》
数メートル先にいる薮くんは
さっき目の前にいた薮くんとは違うように見えた。
《 こっち向いて… 》
なんて思ってたって叶うはずがない。
ピロンッ
何かの通知音が聞こえて
音がしたベンチの下を見ると…
私のスマホが転がっていた。
急いで拾い上げると
バッグが落ちていることに気がついた。
《 バッグが落ちていたことも
気づかなかったなんて… 》
《 ほんとに薮くんのことしか
考えられなかったんだな… 》
急いでバッグとスマホ、バッグから出てしまった
中身を拾い上げ砂を落とした。
砂を落とし終わり、通知を確認する。
お母さんから
「すぐ帰ってきて!鍵無くして入れないの!」
という通知だった。
《 薮くんが今いるのに帰れるわけないじゃん 》
《この暑さで外にいたらお母さん
熱中症になっちゃうかも…》
《鍵を渡して急いで戻ってこよう!》
そう決心し、薮くんをチラッと見てダッシュで
家へと向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。