第2話

いつわりだらけ
この部屋はとても優しい。
ベッドの上にいるだけで、衣食住が保証されているから。
特に何もしなくても部屋は、清潔に保たれているから。
でも、そんな優しさまがいの小さな部屋は、自分と向き合う時間が詰まりすぎていて、少し息苦しい。
私は身体を起こして、車椅子に腰掛ける。
ベランダから見える空には、寝ぼけていたら日の出と勘違いしてしまいそうなオレンジが広がっていて。


まるで生まれたてのように燃えていた。

涼(りょう)
涼(りょう)
ただいま
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
おかえり
涼(りょう)
涼(りょう)
寝室にいないから、どこへ行っちゃったのかと思った
少し神妙そうに眉を潜めたけれど、すぐに柔らかい表情で笑った涼。
涼(りょう)
涼(りょう)
ご飯、いま作るから待ってて
そう言ってキッチンへ向かう彼の背中を、私はじっと見つめていた。
ジクジクする痛みに鈍感になったつもりで、車椅子をゆっくりとターンさせた。


窓ガラスに映った自分の顔は、今にも泣きだしそうだった。不安そうに、歪んでいた。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
(だいじょうぶ)
昨日、彼に言った言葉。
わからない。いったいなにが『だいじょうぶ』なんだろう。そんな顔で。そんな体で。
いったい、誰のために、何を守るために、何を耐えているんだろう。
ガラスの向こう側の景色は、黒が滲み始めている。
ゆっくりと、でも確実に。
その色で染めあげようと、むしばむ。
これもまた、一種の呪いだと思った。
涼(りょう)
涼(りょう)
出来たよ、今日はうまくいったみたいだ
ダイニングには形のいいロールキャベツと、ご飯と、コンソメスープ。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
よく煮崩れしなかったね
涼(りょう)
涼(りょう)
かんぴょうでキャベツごとくくったからさ
得意げな様子が面白くて、思わず笑う。
そんな私を見て、涼は両手で私の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
そのまま、私の後頭部に手をまわして、抱きしめる。
私は座ったままだから、鼻の先に彼の角張った鎖骨があたって少し痛い。
彼の匂いがする、彼のなかで考えた。
この人はわたしを、ここに繋ぎとめてくれている人なんだ。
そう思えば思うほどあたたかかった。
涼(りょう)
涼(りょう)
少し痩せた?
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
まさか。ほとんど動かないのに体重が減るわけないでしょ
嘘だ。おととい測ったら二キロ減量していた。
ふいに、彼は曖昧な顔で笑う。
泣き笑いみたいな、でも本当の感情を隠す演技のような、私の知らない彼。
涼(りょう)
涼(りょう)
冷める前に、食べよ
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
うん
最後に振り返った時、外には完全に黒が広がっていた。
儚げな夕暮れに、毒が完全にまわるまで、そう時間はかからなかったようだ。