第10話

人魚の涙
潮の匂いが、よりいっそう濃くなる。
立ち上がった私のスカートが、風になびいた。
重力を感じなくなった身体は、ほろほろとほどけるように透き通っていく。自分の気持ちを受け入れたいま、一気に魔法呪いが身体を駆け巡ったのだろう。 



普段より何倍もはやく。
涼は何も言わず、涙を流してこちらをじっと見ていた。
いつかはくると思っていた、この瞬間が、やっぱり寂しい。でも、どこにも痛みは感じなくて、心情とは裏腹にとても安らかだった。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
ねぇ、次は別のかたちで出逢いたいな
そこが天国であろうと、荒れた地の果てであろうと、あなたにもう一度出会えたその時、私はほほ笑みかけたい。
そしてもう一度、あなたを愛したい。
私の知らない過去はあまりにも複雑すぎて、上手く生きることが出来なかったけれど、あなたがいてくれたからこんなに幸せだった。
涼(りょう)
涼(りょう)
きっとまた君を見つけるよ
不器用に揺れるその言葉に胸が熱くなった。
この瞬間も、質量は失われ、体温は溶け、シャボン玉のような気泡が私を包み込んでいく。
やがて浮かびゆく身体を実感すると、私はそっと涼の頬に両手を伸ばした。指先で、流れる涙をそっとすくう。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
泣かないで
涼(りょう)
涼(りょう)
悲しくて泣いているんじゃない。··········柊花に言わないといけない言葉が見つからないんだ
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
なにも言わなくていいよ
私はたくさんのものを、十分にもらった。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
私を忘れてもいいよ、なんて言えないけれど、ちゃんと素敵な人を見つけて幸せになってね
涼(りょう)
涼(りょう)
··········無理かもしれない
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
そうしてくれなきゃ、困るよ
涼(りょう)
涼(りょう)
ごめ_______________
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
それ以上言わないで
時間はこくこくと迫る。もう下半身はほとんど泡になっていた。次に強い風が吹いたら、私も消えてしまうかもしれない。
柊花(しゅうか)
柊花(しゅうか)
愛してる
涼(りょう)
涼(りょう)
俺も、愛してる。これまでも、これからも
涼が私を抱きしめようとしたけれど、伸ばした腕は私をすり抜けて、彼のところへ戻ってしまった。



もう、私はほとんど空気と馴染んでいて。
涼(りょう)
涼(りょう)
ああ_______________
完全に泡になった私は、透明になり、天へとの昇っていく。



さよならはやっぱり言えなかった。


_______________❁⃘*.゚❁⃘*.゚❁⃘*.゚
これから先のあなたのことを思って流れた涙。その一粒が海へと還り、それがいつか、慈しみの雨を降らしますように。



願わくば、悲しくて苦しくて辛いとき、あなたに優しく降りかかる雫はそっと受け止めて欲しいのです。

まだ見ぬあなたを愛すその時まで、




_______________私たちは同じ空の下で繋がれているから。